郵政問題より優生問題

君の負担 一人の遺伝病患者は国家にとって毎日5.5マルクのコスト
一人の遺伝病患者は60歳になるまでに平均で5万マルクかかる 5.5マルクで遺伝的に健康な一家族が一日生活できる!




 解散によって廃案になった障害者自立支援法ですが、政府が選挙後の国会でこの法案を再提出すると言っています。郵政改革を進める勢力は、障害者自立支援法に賛成の勢力でもあります。
 上に引用したのは、有名なナチスプロパガンダ・ポスターです。特に、左のポスターのイメージ操作は巧妙だと思います。「障害者」とされる人々がのうのうと楽に暮らしているおかげで、君たちが、痛みに耐えて頑張らねばならない、というわけです。ここには、加害と被害の巧妙な転倒術が用いられているのです。実際には、障害者に痛みを与えることによって生きているのに、「おれたちは彼らによって痛めつけられている、もうがまんできない」となるわけです。
 痛みを伴う構造改革、といいますが、実際それは弱者に、「他者」に痛みを与える構造改革です。ところが、そうした「加害」は、自分たちも被害を受けているという事実によって正当化され帳消しにされてしまうのです*1

不況でつらいよな。おれたちはもう十分痛みに耐えて、頑張ってはたらいてきたよな。……なのになんであいつらは、公務員は、郵便局員は、障害者は、おれたちが必死で働いて払った税金で楽をしてやがんだ。おれたちは痛みに耐えて頑張ってるんだから、おまえらもちょっとは痛い思いをしろ

 と、まあそういうことでしょう。つまり、「おれたちは「差別」しているのではない、「公平」を求めているだけなんだ」と。自分たちが痛い思いをしているんだから、大手を振って他者に痛い思いをさせることができると。他者に痛みを与えるという罪悪感はなくなり、むしろかえって(障害者という)「加害者」に対する怒り、被害意識をどんどん増大させていくわけです。
 
 ナチスドイツは、障害者は社会的「負担」であるとして「徹底的なコスト計算」を行いました。

 ナチス時代に「遺伝病」という教育映画が作られた。「遺伝病」の各シーンの前には字幕が書かれている。「(路地裏の様子が写し出され)健康な国民の生活状況はこんなものである。うっとうしく、暗い家に子ども達は育つのである。精神障害者は、すばらしい敷地に建つ豪勢な家で暮らしている」。
http://members.tripod.com/~milocafe/fukushiseido990114.htm

 要するに、「健康な国民」が暗い家で「痛み」に耐え、「障害者」の方が「豪勢な家」で「楽に」暮らしている、というイメージ操作です。
 そして、第二次大戦勃発直後、ナチスは、7万人もの障害者を「安楽死」させた悪名高い「T4」作戦を実行しました。T4の後にも障害者の積極的・消極的殺害は続き、犠牲者の総数は25万人とも言われます。

 この計画を実行に移した後ナチスは、どれだけの物と金が浮いたかという収支決算表を作成している。障害者が施設で10年生きた場合の経費を試算し、例えばジャガイモでおよそ19万トンが節約され、合計では8億8千5百万ライヒスマルク以上の国家の経費が浮いたと報告している。
 7万3千273人の障害者の殺害をナチスは「消毒」と呼んだ。(同上)

http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20050912#p1 に続く)

*1:本当は自分にももっと痛みがやってくることになるんだけど