サルトルと贈与

 ついでに、北見さんの論文の「贈与」に関したところを引用しておきます。『道徳論手帳』*1についての解説です。

 対人関係のレヴェルでは、「相克」が「相互性」に変化し、絶えざる脱中心化の過程が肯定される。この点についてのサルトルによる具体的な考察は、紙面の都合上割愛せねばならないが、次の点だけは確認しておきたい。即ち、こうした脱中心化の過程を「贈与don」のモデルを使いながら分析している点である。もちろんこうしたアプローチの源泉は、モース等文化人類学の研究に拠っているが、「贈与」を基軸に考える点で、サルトルは、「交換」即ち等価性を基軸に考えるレヴィ=ストロースに対立する。この点では、むしろ、レヴィ=ストロースの交換主義的側面を批判し、「贈与」の先立つことを主張するニーチェドゥルーズ=ガタリの立場に近いといってよい。そして、この様な「贈与」の反復が、世界の「多次元性」を肯定し、世界は「多様性の柔軟で流動的な統一性」となるだろう
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 そしてこの点では当然バタイユとの関係が出てくるわけです。

*1:1947-8年に執筆され、死後出版された重要なノート。未訳です。

*2:サルトルにおける二つの「他者」−『道徳論手帳』の問いかけるもの−」p.121-2