『傷つくのがこわい』その1

 以下は、ちょうど一年ぐらい前に書いてボツにしていた記事です。最近、今村仁司の『近代の労働観』(岩波新書

近代の労働観
近代の労働観
posted with 簡単リンクくん at 2006. 8.21
今村 仁司著
岩波書店 (1998.10)
通常2-3日以内に発送します。
を読んで、かなり関連する内容だったので、復活させて載せることにします。『近代の労働観』については近々書く予定です。

                  • -

傷つくのがこわい
根本 橘夫著
文芸春秋 (2005.5)
通常2-3日以内に発送します。
 たまたま本屋で、本当に何気なく、根本橘夫『傷つくのがこわい』(文春新書)を手に取り、ぱらぱらと覗いていたら、ちょっと面白い箇所があったので、結局購入しました。全体としては、気軽に読める心理学仕立ての人生論、と言った趣があり、実際一気に読んでしまったのですが*1、立ち読みで気になったところとは、第五章「傷つきやすい若者への接し方」の【夢を持てない社会】と題された項目のところです。この箇所の後半で、著者はいわゆるフリーター・ニート問題に触れています。

 フリーターやニートの増大を、青年の労働意欲の低下によるとする考えがあります。たしかにこの考えが当てはまる人もいます。しかし、それが主要な原因ではないのです。
 たとえば、日本青少年研究所が二〇〇三年に行った高校生の国際比較意識調査の結果を見てみましょう。この調査のなかに、「将来自由で気ままでいたいので、正式な就職はしたくない」という質問項目があります。これについて、「全くそう思う」「まあそう思う」と答えた日本の青年は日米中韓四ヶ国中もっとも低く一五.七%でした。これに対し米国の若者は五七・九%という数値が得られているのです。我が国の高校生は他国の高校生に比し、むしろ定職に就くことを望んでいる率が高いのです。
 フリーターやニートの増加を、彼らの内面の問題にだけ帰すのではなく、我が国の労働条件こそ大きな原因があるととらえるべきです。非人間的な労働条件への人間的な反発でもあるのです。
 たとえば、成果主義や能力給などが、正当に能力を評価し報いるという美名のもとに導入されていますが、じっさいには体のいい給与の引き下げ策にほかならないことを、彼らは本能的に見抜いているのです。
 入社試験、面接と懸命にがんばってみても、じっさいにはなんらかのコネを持つ人だけが選考されていく。面接者の心ない言葉に何度傷つき泣かされることか。運良く入社できても、完全週休二日制という会社案内のパンフレットは全くの空文。毎日のサービス残業
 傷つきながらも就職活動にがんばる学生たちと日々接する私たちには、こうした状況から、フリーターという選択をすることも理解できることなのです。(p.114-5)

 ここだけ読むと、『希望格差社会』において「職業カウンセリング」などと言っている社会学者の山田昌弘氏よりも、心理学者である根本橘夫氏のほうがよっぽど社会的な問題に目が向いているんじゃないか、とも言いたくなってしまいますが……*2しかし、順番は逆になってしまうのですが、上の箇所に先立つ【夢を持てない社会】の前半部分では、根本氏もこの問題を「心理的」側面から論じています。
その2http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20060625/p4 につづく

*1:ちょっと納得いかないところもいくつかありましたが。

*2:いや、心理学は社会を問題にしない、と言いいたいわけではないのですが。