ボヴェ太郎の種退治

おGさんは山にプレカリに、おBさんは川に選択に

 むかしむかし、武蔵の国の、ある所……沢のちいさな長屋(アパート)に、画太利(ガタリ)さんと暮部(ボヴェ)さんという不安定雇用層、つまり夫隷刈阿人(プレカリアート)の若者が住んでおった(以下、GさんとBさんと略)。おGさんとおBさんは、貧しい上に希望もなく、しかも世間からは煮居徒(ニート)だ怠け者だと非難され、肩身の狭い思いをしながらつつましく暮らしておった。
 そのうちに二人は、くらしが苦しいのは自分たちのせいではなく、愚弄罵詈頭無(グローバリズム)と寝澱部(ネオリベ)が悪いのだ、という思想にめざめ、時々は、「ええじゃないか」と歌い踊りながら路上解放をうったえる左運動出茂(サウンドデモ)などにも参加するようになったそうじゃ。
 ある日、おGさんは山で木の下枝などを拾い集める林業関係の短期雇用賃労働を見つけ、山に夫隷刈り(プレカリ)に行った。
 おBさんは仕事がみつからず、川に選択に行った。「生きるべきか死ぬべきか、いやさ、生かされるか、死ぬがままにされるか」と、川面を見つめながら、おBさんが風香(フーコー)聖人の生権力の問答について思いをめぐらせていると、上流から、大きな牛が、どんぶらこ、どんぶらこ、と流れてきた。
 「これはおいしそうな牛だ……でも、亜米利加の国から流されてきたBSE牛かもしれない。そうはいっても仕方がない。もってかえっておGさんに食べさせよう」そう思ったおBさんは、牛を担いで長屋に帰ったそうな。
 夫隷刈り(プレカリ)から帰ったおGさんと一緒に、牛を解体して食べようと思ったそのとき、牛から、玉のような子が生まれた。おGさんとおBさんはその子に「助是(ジョゼ)」という名前を付けた。二人は夫隷刈り(プレカリ)をやめて、自然農法による畜産を実践しながら牛の親子を育てたんじゃ。助是(ジョゼ)は、「モーモーから生まれたモーモー太郎」とか「ボヴェが育てたボヴェ太郎」と呼ばれるようになった。ボヴェ太郎はすくすくと元気に育ち、立派な反グローバリズムの闘士になった。

ボヴェ太郎、ホームシックにかかる

 牛から生まれたと思われていたが、実はボヴェ太郎は、猪野区巣(イノックス)星という星からやってきた宇宙人だったのじゃ。大きくなったボヴェ太郎は、次第に故郷の猪野区巣(イノックス)星が恋しくなり、夜空を見上げてため息ばかりつくようになった。そんなボヴェ太郎を見て、おGさんとおBさんは、ボヴェ太郎に嫁をとらせようと思いついた。ボヴェ太郎と結婚したい女たちがたくさんやってきた。
 ある女は「私は料理が得意よ、ボヴェ太郎に愛情のこもった手料理を食べさせるわ」と言い、別の女は「私は洗濯に掃除、家事なら何でも得意よ」と言い、またある女は「私はミス和牛コンテストでグランプリを受賞したのよ」と言いながら、なんとかボヴェ太郎の気をひこうとしたそうじゃ。それを見たボヴェ太郎は「なんたることだ、高価な贈り物を持って男たちが求婚したというかぐや姫の物語といい、ジェンダーバイアスを押し付けるこのストーリーは問題だ。これというのも、寝澱部(ネオリベ)を補完する寝汚根(ネオコン)勢力による爆羅修(バックラッシュ)の影響に違いない」と言ったそうじゃ。

ボヴェ太郎、種退治に出発

 ある時、ボヴェ太郎は、故郷の猪野区巣(イノックス)星に帰るには炉穴塔(ロケット)というものに乗ればいいこと、そして、種子島というところで炉穴塔(ロケット)の打ち上げをしていることを知った。そこでボヴェ太郎は、種子島へ行こうと思いついた。じゃが、そのことをおGさんとおBさんに言うと止められるだろうと思ったボヴェ太郎は、二人にこう説明した。
 「おGさん、おBさん、種子島では、恐ろしい種たちがたくさんいて、悪さをしているそうです。オラは種子島に行って、種退治をしようと思います。」
 それを聞いたおGさんとおBさんは、怪訝そうな顔をしてこう言った。
 「でもボヴェ太郎や、鬼ならわかるが、あんな小さい種が、一体どんな悪さをするというんだい?」
 「おGさん、おBさん、悶惨戸(モンサント)などの多国籍企業が、遺伝子組み換えによって農産物を作り変えようとしていることは知っていますね。彼らは、そうして作った種子に生物特許を認めさせようとしているんだ。そうした種子の遺伝子は、自然交雑によって、広がっていく可能性があります。多国籍企業は、自分たちから種子を購入しなかった農民が、自然交雑でできた種子を用いたときに、彼らを特許侵害で訴える、ということを行っています。多国籍企業の目的は、彼らの種子を全世界の農民に買わせることなのです。多国籍企業は、遺伝子組み換え作物によって世界の農業を支配しようとしているのです。だからオラは、そうした悪い種を退治して、愚弄罵詈頭無(グローバリズム)と多国籍企業と戦うんだ。*1
 それを聞いたおGさんおBさんは涙を流して喜んだそうじゃ。
「ボヴェ太郎や、立派な反グローバリズムの闘士に育ってくれて、おGさんとおBさんはうれしいよ。種子島に行って悪い種をやっつけ、多国籍企業と闘っておくれ」
 そして、道中おなかがすくといけないから、と、キビだんごを持たせてくれたのじゃ。キビだんごを渡されたボヴェ太郎の顔が曇ったそうじゃ。
「おGさんおBさん、このキビだんごは……」
 じゃがおGさんおBさんはこう言ってボヴェ太郎を安心させたのじゃ。
「ボヴェ太郎や、大丈夫だよ。この団子のキビは、遺伝子組み換えでない種子を使い、うちの農場で無農薬有機農法で栽培されたキビの粉を100パーセント使用しているんだよ。だから、安心してお食べなさい。」
 というわけで、ボヴェ太郎は、キビ(遺伝子組み換えでない)だんごを腰につけると、種退治のために種子島に出発したのじゃ。

ボヴェ太郎、猿取(サルトル)をお供にする

 ボヴェ太郎が種子島を目指して歩いていると、一匹の猿取(サルトル)が、「わしは毛派ではない」と良いながら、『人民の大義』という毛(マオ)派の瓦版を配ってあるいていたそうじゃ。猿取(サルトル)はボヴェ太郎に「ボヴェ太郎どん、ボヴェ太郎どん、お腰に付けているのは何じゃね?」と聞いた。ボヴェ太郎は「これは、無農薬有機栽培されたキビ(遺伝子組み替えでない)を用いた、キビ(遺伝子組み替えでない)だんごだよ。」と答えた。猿取(サルトル)はキビ(遺伝子組み替えでない)だんごを見ると、ボヴェ太郎に「あんたはこれからどこに行くのじゃね?」と聞いた。ボヴェ太郎は、悪い種を退治して愚弄罵詈頭無(グローバリズム)と戦うために、キビ(遺伝子組み替えでない)だんごを持って種子島に行くのだ、と答えた。それを聞いた猿取(サルトル)はこう言ったそうじゃ。
「わしは一九五二年からたった四年間、共産党の「同伴者」となった。一九五六年の洪牙利(はんがりい)の乱で党を批判し、同伴者の関係を解消したが、共産党との関係を完全に断ったのは一九六八年の五月革命の乱に際してじゃ。毛派の若衆と出会ったとき、私は、ようやく「共産党の左」を発見した、と思った。しかしその後、毛派の運動も行き詰まってしまった。じゃがボヴェ太郎どん、わしは君に会って初めて、「毛派の左」を発見したよ。」
 ボヴェ太郎は、こんな知識人は役に立ちそうにないと思ったのだが、まあ何かで使えるかもしれないと思ったので、連れて行くことにした。こうして、ボヴェ太郎は猿取(サルトル)を同伴者として、種子島をめざした。

ボヴェ太郎、猿取(サルトル)を総括する

 道中疲れた二人が民家で休んでおると、囲炉裏の灰の中から、根栗(ネグリ)という栗が「まるちちゅどーん!」というどえらい音を立ててハゼて、猿取(サルトル)は火傷してしまった。あわてた猿取(サルトル)が、「あちち、あちち、水はないか」と土間にあったカメの水に顔をつけようとすると、カメに隠れておった舞蹴鳩(マイケル・ハト)という鳩が猿取(サルトル)をつついた。猿取(サルトル)は、「いてて、いてて、こりゃたまらん」とほうほうのていで逃げていってしまった。
 すると、根栗(ネグリ)と鳩(ハト)は、「あんな時代遅れの猿取(サルトル)なんか連れて行くのはおやめなされ。愚弄罵詈頭無(グローバリズム)と闘うには僕らをつれていくのがいい」と言った。ボヴェ太郎が根栗(ネグリ)と鳩(ハト)にキビ(遺伝子組み替えでない)だんごを与えると、二人は喜んでボヴェ太郎についてきた。

ボヴェ太郎、種子島で大活躍

 種子島に行ったボヴェ太郎は、悶惨戸の遺伝子組み替えの種を廃棄したり、遺伝子組み替えのイネを引き抜いたりと、大活躍をした。また、BSEの危険がある牛の輸入を無理矢理再開させた亜米利加の国の政府に抗議するため、建設中の幕怒鳴奴(マクドナルド)の建物を解体するパフォーマンスを行った。こうしたボヴェ太郎たちの非暴力直接行動の実践を、瓦版は「暴力的な略奪行為」などと歪めて伝えた。そしてボヴェ太郎は奉行所に逮捕されたが、ボヴェ太郎は「国家はオラの行為を違法行為として取り締まろうとするが、合法性と正当性は違う。オラの行為は、人民の正当性に基づいた非暴力直接行動であり、早漏(ソロー)おじさんの言う市民的抵抗の実戦なんだ」と言った。これが、手錠をかけられた手を高々と挙げたそのときのボヴェ太郎の姿じゃ。

 さて、ボヴェ太郎はこうして悪い種を退治して種子島で大活躍したのじゃが、かんじんの種子島の炉穴塔(ロケット)は、打ち上げ失敗ばかりしているしょぼいもので、とても猪野区巣(イノックス)星に行けるような代物ではないことがわかった。ボヴェ太郎は、もっと性能のいい炉穴塔(ロケット)は、亜米利加の国の風呂里田(フロリダ)島にある、奈佐(ナサ)の宇宙仙太というところに行かねばならないことがわかった。
 そこでボヴェ太郎は、おGさんとおBさんを説得した。「おGさんとおBさん、僕は愚弄罵詈頭無(グローバリズム)との闘いを続けるために、亜米利加の国に行くよ」
 こうしてボヴェ太郎の弄罵詈頭無(グローバリズム)との新たな戦いがはじまったのじゃ。
(つづく……ことはないです。たぶん)

ジョゼ・ボヴェ
ジョゼ・ボヴェ〔述〕 / ポール・アリエス聞き手 / クリスチアン・テラス聞き手 / 杉村 昌昭訳
柘植書房新社 (2002.10)
通常2-3日以内に発送します。


地球は売り物じゃない!
ジョゼ・ぼべ〔著〕 / フランソワ・デュフール〔著〕 / ジル・リュノー聞き手 / 新谷 淳一訳
紀伊国屋書店 (2001.4)
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ネオリベ化する公共圏
〓 秀実編 / 花咲 政之輔編
明石書店 (2006.4)
通常24時間以内に発送します。


ネオリベ現代生活批判序説
白石 嘉治編 / 大野 英士編 / 入江 公康〔ほか〕インタビュー
新評論 (2005.10)
通常2-3日以内に発送します。

サルトル
サルトル
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.27
永野 潤著
ナツメ社 (2003.8)
通常1-3週間以内に発送します。

帝国
帝国
posted with 簡単リンクくん at 2006. 9.27
アントニオ・ネグリ著 / マイケル・ハート著 / 水嶋 一憲〔ほか〕訳
以文社 (2003.1)
通常1-3週間以内に発送します。