エクアドルの裁判は悪い裁判

たまに夜中にやっているCBSドキュメントという番組をみるのですが、先日やっていたのは、エクアドルの先住民が、環境汚染問題でアメリカの巨大企業シェブロンを訴えている、という話でした。シェブロンは、水俣チッソとおなじように、終始責任のがれをしようとしています。この話は、2007年にデモクラシー・ナウでもとりあげられています。こちらで字幕ビデオも見られます。
デモクラシー・ナウのページでは、事件はこのように説明されています。

 エクアドル熱帯雨林の奥に住むコファン族は、何千年も前から手工芸や狩猟で生計を立てる、平和な生活を送っていました。ところが、1972年にやってきたテキサコ社(2001年にシェブロンと合併してシェブロン・テキサコ社に。現シェブロン社)は、「石油を肌に塗ると痛みに効く」と嘘を言って、コファン族には理解できないスペイン語で書かれた石油採掘の許可契約書を締結し、開発を進めたのです。以来、周辺に住むコファン族には、血を吐いて死ぬ人など、病人が絶えなくなりました。先住民族を含む住民の訴えによると、テキサコの現地会社は1972年から1992年にかけて有毒な排水や原油を廃棄し続け、その結果熱帯雨林、農作物や家畜に被害が及び、住民の間のガンの発病が増加したといわれています。

 そこで昨年、周辺住民がシェブロン社に対して120億ドルの訴訟を起こしました。シェブロンの弁護士は「コファン族が訴訟に勝つには、例えば小児ガンが石油採掘のせいだと証明する必要があり、しかもそれがシェブロン・テキサコ社の石油採掘のせいだと証明する必要がある。そんなの不可能」と笑います。近年、外国の石油企業は追い出され、エクアドルの国営石油会社「ペトロエクアドル」が取って代わっているので、シェブロン社は、「被害があるとすれば、それはペトロエクアドルのせいだ」と主張しているのです。

http://democracynow.jp/submov/20071227-1

うえの説明では、訴訟の額が120億ドルとなっていますが、そのご、この賠償額は270億ドルにひきあげられています。
米シェブロンは270億ドルの賠償支払うべき=エクアドルの環境専門家

米石油大手シェブロンは26日、エクアドルの環境専門家が、環境破壊の代償として、270億ドルの損害賠償を支払うべきだと指摘されたことを明らかにした。

 シェブロンによると、地質学者リチャード・カブレラ氏は4月、裁判所に対し、同社の支払うべき損害賠償額は推定で最大160億ドルとの見解を示していた。

 今回の賠償額引き上げ要求に対し、同社は声明で「でっちあげと誤った証拠が含まれている」として、拒否する姿勢を示した。

 エクアドルの農民と原住民は1990年代初旬、シェブロン傘下のテキサコが、1972─1992年に180億ガロン(680億リットル)の汚染排水を不法に廃棄し、密林汚染や健康被害を引き起こしたとして、テキサコを相手取り訴訟を起こしていた。(ロイター2008年11月26日)

CBSドキュメントでは、シェブロン社の「国際問題対策部長」という肩書きのシルビア・ギャリゴという人物が登場し、CBS記者相手に「カブレラ氏の意見はかたよっている」「訴訟はアメリカ企業にたいする詐欺行為だ」「調査結果もカブレラ氏も、腐敗して政治化されたエクアドルの司法制度の枠に組み込まれている」などとまくしたてていました。
シェブロンがわが「政治化」うんぬんをいっているのは、ベネズエラチャベスと同様、反米で左翼、反ネオリベの経済学者でもある現在のエクアドル大統領、ラファエル・コレアが、この裁判の原告団を、「英雄」と呼んで明確に支持しているからです。コレアは、「マイアミにエクアドルの基地を作らせてくれない限り、エクアドルの米軍基地を撤退させるべきだ」と、南米唯一の米軍基地の撤退をつよくせまったそうです。どこかの国の政治家とはえらいちがいです。しかし、政治化とか政府との癒着うんぬんをいうなら、ライス前国務長官が以前取締役を勤めていて「コンドリーザ・ライス」という超大型タンカーを持っているというシェブロンにこそあてはまるんじゃないか、とおもいますがね。

ところで、このコレアCorrea大統領のコレアという名前についてですが、彼は秀吉の朝鮮侵略で長崎に連行されていた朝鮮人奴隷(のなかで、イタリア人に買いとられてイタリアにわたった一人)の子孫ではないか、と歴史研究者琴秉洞(くむ・びょんどん)氏は推測しています。http://www1.korea-np.co.jp/sinboj/j-2008/06/0806j1114-00003.htm
さて、訴訟の話にもどりますが、そもそも、アマゾンの先住民は、1993年に、まずアメリカ連邦裁判所に訴えをおこしたのだそうです。しかし、9年におよんだ裁判は、原告の敗訴におわりました。で、当時、テキサコ(その後シェブロンに買収されて現在の被告はシェブロン)は、一貫して「この事案はエクアドルで処理すべきだ」と主張していたそうです。
というわけで、アメリカで敗訴した原告団は、こんどはエクアドルで訴えをおこしました。2003年にエクアドルのラゴ・アグリオで開かれた初公判の冒頭陳述で、シェブロン側の弁護人は、こんどは「エクアドルの裁判所にはこの事件の司法権はない」と主張したそうです。
アメリカでの裁判では、エクアドルの問題だからアメリカは関係ない、とばかりに「エクアドルでやれ」といい、エクアドルで裁判がはじまると「エクアドルはだめだ」と……。おもわず失笑してしまいまいましたが、CBSの記者はこの点でシェブロンのギャリゴ氏につっこみを入れていました。「エクアドルで裁かれるというのは望んでいたことでは?」すると、ギャリゴ氏はみけんにタテジワを入れたまま「訴訟はのぞんでいません」と。さらに「エクアドルがいやなら、じゃあどこの法廷ならいいと?」とつっこまれるとこう答えていました。
「どこの法廷ものぞんでいません。このような根も葉もない訴えならなおさらです。」
まあ、シェブロンがわとしては、エクアドルの裁判ではじぶんたちが負けそうだから、そんなことを言っているわけですが、アウェーの試合に負けそうになると「審判がわるい」とか「試合会場が悪いから試合は無効だ」とかいいはじめてるようなもんで、とってもみっともないですね。
しかし、シェブロンが「エクアドルの裁判など無効だ」といっているのは、エクアドルにたいする蔑視のあらわれでもあるでしょう。というかそもそも、アメリカ国内ではありえないずさんな採掘をおこなって、有害物質のたれながしを放置したのも、エクアドルエクアドルのひとびとに対する蔑視があるからこそなわけですが。
さて、ではこの問題は「エクアドルの問題だから、アメリカの問題だから、日本は関係ない」といえるかというと、いうまでもなくそんなことはないわけです。テロ対策特別措置法に基づき日本政府がアメリカ海軍に供給した燃料は、シェブロンから購入したものだ、と言われています*1
というわけで、エクアドルの人々とコレア大統領を応援するために、とりあえずバナナはエクアドル産のものをせっきょくてきに買っていこうと思います。

*1:政府は秘密にしているようですが。wikipediaでは断言されていますが、ソースはよくわかりませんでした。ご存知のかたがいたら教えてください。