生活保護は増えてないし、もっと大事なことは増えて何が悪い、ということ

東京新聞の記事。全体としては、生活保護見直し議論に対して批判的な論調ではある。
生活保護水準の原則一割カット」を言っている自民党をはじめとする、各党の公約の比較もしている。

  • 自民党は「手当より仕事」を基本にし、生活保護水準の原則一割カットを打ち出し、保護費の半分を占める医療扶助の適正化を公約に盛り込んだ。
  • 日本維新の会は維新八策で(1)支給基準の見直し(2)医療扶助に自己負担制導入(3)現物支給を中心にする−との抑制策を打ち出した。
  • みんなの党も「生活保護制度の不備・不公平、年金制度との不整合などの問題を解消」と切り下げを示唆している。
  • 共産党は「必要とするすべての人に受給権を保障」と公約に明記。社民党は「生活保護制度を守る」とした。
  • 抑制に積極的な自民と維新、反対の共産、社民の中間が民主党マニフェストに不正受給防止のため国や地方自治体の調査権限強化や一定期間ごとの受給要件の再確認を明記したが、支給水準下げは盛り込まなかった。日本未来の党は二日に公約を発表する。
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2012120202000092.html

ただ、この記事を最初に読んだとき、話の前提となっている生活保護受給者数増加、ということを説明するグラフを見て、びっくりした。

これ、パオロ・マッツァリーノが『反社会学講座』で批判していた、少年犯罪増加のグラフと全く同じ。http://pmazzarino.web.fc2.com/lesson2.html
同じすぎてびっくりした。
少年犯罪が急激に増えている!ということを示すために良く用いられるこのようなグラフ

ちょっとまて、グラフのもっと左側、昭和の部分はどうなってるんだ?と見てみるとこうなっていた

というオチですね。まあトリミングというかなんというか。
で、同じく生活保護受給者についても、東京新聞のグラフよりもっと左側はどうなっているのか、ということなのだが、そのことも含めて、生活保護についての誤解・曲解は日弁連のパンフレットに詳しくかかれている。
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/seikatuhogo_qa.pdf
ここのA1にあるように、近年の生活保護受給者数は200万を超えて確かに過去最高を更新しているかもしれないが、1951年当時も、実は204万人も受給者がいたのである。しかしそれだけではない。たとえば1951年当時の人口は8500万しかいなかった。つまり人口当たりの受給者数は、増えているどころではない。60年前から比べると、むしろ減っているのである。その辺がよくわかるように、国立社会保障・人口問題研究所http://www.ipss.go.jp/のデータを元に、人口千人当たり生活保護受給者数の変遷をエクセルでグラフにしてみた。すると、やはり反社会学講座のと同じようなグラフが出現したのである。

つまり、人口1000人あたり生活保護受給者数は、1952年23.8人に対して2010年15.2人。3分の2でしかない。ここ十年の増加だけが強調されるのはやはりおかしい。
そして、生活保護の問題は、日弁連のパンフが言うように、「受給者数が多すぎる」ことが問題なのではなく、むしろ、「受給者数が少なすぎる」こと、言い換えれば、「受給できるのにしていない人が多すぎる」ことが問題なのである。

日本では人口の1.6%しか生活保護を利用しておらず、先進諸外国よりもかなり低い利用率です。しかも、生活保護を利用する資格のある人のうち現に利用している人の割合(捕捉率)は2割程度にすぎません。残りの8割、数百万人もの人が生活保護から漏れているのです。仮に日本の捕捉率をドイツ並みに引き上げると、利用者は717万人になります。

つまり、「二百十何万人も受給している」ことではなく、その数倍の「五百万人もが受給からもれている」ことが問題なのである。
そして、不正受給についても、日弁連のパンフを見ると、マスコミなどがいかにゆがめて伝えているかがわかる。

不正受給の件数や金額が年々増え、不正受給が横行しているかのような報道がされています。しかし、不正受給の件数などが増えているというよりも、生活保護利用者が増えていることに伴う数字の変化というべきでしょう。不正受給の割合でみると、件数ベースで2%程度、金額ベースで0.4%程度で推移しており、大きな変化はありません。また「不正受給」とされている事例の中には、高校生の子どものアルバイト料を申告する必要がないと思っていたなど、不正受給とすることに疑問のあるケースも含まれています。
もちろん、悪質な不正受給に対しては厳しく対応すべきですが、そういうケースはごくわずかな例外です。数字を冷静にみれば、数百万人の人が生活保護受給から漏れていること(Q2)の方が大きな問題なのです。

さらに、よく言われる「生活保護予算が国や地方の財政を圧迫している」というような説も、誤解ないし曲解である。

日本の生活保護費(社会扶助費)のGDPにおける割合は0.5%。OECD加盟国平均の1/7にすぎません。諸外国に比べて、極端に低いのです。生活保護費が財政を圧迫しているとはいえませんし、生活保護費を引き下げても、財政への影響は小さいのです。

「小さな政府を」とか言うが、社会扶助に関しては、日本は現時点ですでに極小の政府でしかなかった、というわけである。
しかし、日弁連パンフの中で一番重要なのはA8の次の言葉だと私は思う。

そもそも、生活保護費は国民のいのちを守るための支出です。財政問題を理由に安易に引下げを論じるべきではありません。

つまり、(実際には違うが)仮に、生活保護によって(つまり命を守ることによって)財政が破綻するのだとしたら、どう考えてもそれは「そんな「財政」の仕組みがおかしい」ということだ。一体それ以外の何だというのだろうか?



追記:日弁連のパンフ、新しいのが出ていることに気がついてなかったので図をそこからも使わせていただきました。