「真っ当でない」

news.yahoo.co.jp
8月4日の「産経新聞」朝刊1面に、「反日宣伝に手貸すのか」と見出しが打たれたジャーナリスト・櫻井よしこ氏(79)のコラムが掲載されたという。その中で氏は

「南京大虐殺」はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ。にもかかわらず中国は事実を曲げ日本への憎しみをかき立てる。怒りの渦の中で9月3日には「抗日戦争勝利」の大軍事パレードを迎え、日本の受難は終わらない

 と言っているのだという。これに対して、「女性自身」誌が、『南京事件 新版』(岩波書店)の著者で、「南京事件」研究の第一人者で都留文科大名誉教授の笠原十九司氏インタビューしているのだが、彼は「その論争はすでに終わっている」とした上で、こう言っているという。

70年代、80年代から続いてきた”南京事件論争”ですが、今はもう論争はないんです。’06年に安倍元首相が選出した『日中歴史共同研究』の北岡伸一東大名誉教授や筑波大の波多野澄雄名誉教授が中心となって政府間の正式な共同研究で『南京事件はあった』と結論を出しているわけです。
南京事件があったことは大前提として、日本側の委員は暴行が行われた原因を研究し、中国側は南京事件で日本軍が何をしたかの実態を研究しました。真っ当な研究者で南京事件そのものがなかったと主張している人はいませんよ

 というわけで、櫻井よしこの「「南京大虐殺」はわが国の研究者らによってなかったことが証明済みだ。」という発言は「「南京大虐殺」はわが国の(真っ当ではない)研究者らによってなかったことが証明済み(と称されてきた)」ということでしかないのだが、そう言われても、櫻井としては「左翼の研究者に「真っ当でない」と言われている研究者こそが真に真っ当な研究者。左翼の研究者こそ真っ当でない研究者。」と言っておけばいいので、痛くも痒くもない、というところだろう。
 だがそもそも、その前に櫻井・産経新聞が、真っ当なジャーナリストでも真っ当な新聞でもないので、この件は「真っ当でない研究者もどきによる証明もどきについて語る真っ当でないジャーナリストもどきの発言を真っ当でない新聞もどきが(一面に)載せた」ということでしかないのだが、彼女ら彼らがそれぞれある程度表舞台で活動できている、ということ自体が、この国が「真っ当」な国でないことの証明になっている。
 参政党が躍進する国がいったい「真っ当」な国であろうか?

スポーツと「国籍」

プレゼント機能を使いました。8月11日 12:34まで無料で読めます。コメントもしました。 一方的に「米国籍」と登録されたにも関わらず、今度は「帰化した」と事実とは異なる書類の記入を求められる――しかもその書類を提出しない限り「公式試合には出られない」と、さらに本人が不利益を被ることを提示し同意させるなど、問題だらけの対応。 digital.asahi.com/articles/AST...

安田菜津紀 Natsuki Yasuda (@natsukiyasuda.bsky.social) 2025-08-10T03:37:24.398Z
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 米国籍の父親と日本国籍の母親を持ち、生まれた時から日本国籍の中学生(高知県のサッカークラブに所属していた)。2年前、当時入っていたサッカークラブの担当者によって、本人や家族に確認せず、見た目や名前から、JFA(日本サッカー協会)の選手登録システムに、勝手に外国人として登録されていた*1のだという。母親が登録の修正をJFAとクラブに求めたところ、なぜか、「日本国籍に変更する書類の提出を求められたうえに、申請理由の選択肢には、「国籍区分を日本国籍に変更する(帰化)」と記された項目しかなく、それを選ぶように言われたというのだ。
 勝手に間違って登録しておいて、変更は間違えられた側に書類を出させる、という手続き上のひどさ以上に、事が「国籍」だけにグロテスク極まりない。勝手に国籍を与えたりまた奪ったりしておきながら、「帰化」したいならお願いすれば「許可」してやる、という、日本政府、入管がやってきたことと重なる。
 また、他のスポーツでもあるが、「外国人枠」を設けたりなど、スポーツ団体が「外国人選手」だけを登録・管理しようとすることが当たり前のように行われていること自体がそもそも入管的発想ではないか*2
 スポーツと国籍といえば、以前旧ツイッターでこんな投稿をしたことがある。
↓2012年2月

数年前ワイドショーで、日本の大学に留学中のアフリカ出身の優秀なマラソン選手について紹介してたのだが、レポーターが「えー、ここは早いとこ(日本の記録のために)彼には帰化してもらってですね、ゲヒヒヒ」と笑いスタジオにも笑いが起こったが、そのあまりにゲスい笑いに虫唾が走った

マラソンじゃなくて駅伝だったようで、しかも駅伝に関心がなかったので知らなかったけど、駅伝におけるアフリカ留学生の話題は差別的な形でネットにあふれてるみたい。とりあえず「ディランゴ帰化させようぜ」という2ちゃんねるの書き込みを見た。
↓2014年2月

 森の、リード兄弟についての「五輪出場の実力はなかったが、帰化させて日本の選手団 として出した」ほんとひどいけど、前からひどいの森だけじゃないよね

 「リード兄弟」ではなく「リード姉弟」だが、これは、2014年のソチ・オリンピックの際、姉のキャシー・リードと、弟のクリス・リード(惜しくも2020年に他界した)のアイスダンスのペアについての、森喜朗の発言。正確には「米国に住んでいる。(米国代表として)五輪出場の実力はなかったが、帰化させて日本選手団として出した」と語ったようだ。この時森は、浅田真央についても「負けると分かっていた。浅田真央選手を(団体に)出して恥をかかせることはなかった」とか、浅田がショートで16位だったことについて「見事にひっくり返った。あの子、大事なときには必ず転ぶ」などとひどいことを言って、そちらは話題となったと思うが、やはり「帰化させる」という発言のひどさにももっと注目すべきだろう。そもそも、リード姉弟は、父親がアメリカ国籍、母親が日本国籍であり、二人とも生まれたときから日本国籍で、「帰化」したことなどない。ただ、日米両国籍を持っていたのが、後に「国籍選択」したということなのだが、この「国籍選択」というものも、背後には、「日本人になりたいなら外国籍を捨てなさい」という実に気持ちの悪い発想があるのである。
 そして、この問題を考えるとき、やはり孫基禎(ソン・ギジョン)のことを忘れてはならないだろう。1936年8月のベルリンオリンピックに「日本代表」として出場し金メダルを獲得した孫基禎の表彰式の写真を、「東亜日報」が胸の日の丸を塗りつぶして掲載した。記者は朝鮮総督府によって逮捕され、同紙は発刊停止処分が下されたのである。彼は翌年の1937年明治大学専門部法科に入学するが、競走部への入部は許されず、一切のスポーツ活動が禁じられたのだという。明治大学専門部法科といえば、「虎に翼」の主人公寅子のモデル、三淵嘉子は、1938年に明治大学専門部女子部法科を卒業している。つまり二人の在学時期は重なっている。孫基禎を描いた映画「ボストン1947」は未見だが、そのうち観てみようと思っている。
www.mindan.org
globe.asahi.com

*1:朝日の記事によると「JFAは、中学生以上の加盟クラブ選手を対象に国籍の登録手続きを必須にしている。国際サッカー連盟(FIFA)のルール上、選手本人の国籍と異なる国のクラブへの移籍が制限されているためだ。」という。

*2:このケースの場合FIFAのルールが背景にあるようではあるが

警官などの制圧による死亡事件

 帯広で警官に制圧されて女性が死亡した事件。死因は「急性心機能不全」で制圧行為が死因ではない、と発表されたそうだ
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2日、北海道帯広市で警察官に取り押さえられた32歳の女性が死亡した事案で、司法解剖の結果、女性の死因は「急性心機能不全」だったことがわかりました。
警察の制圧行為と死亡との因果関係はないとしています。
8月2日午前3時半ごろ、帯広市西19条南3丁目付近の屋外で、32歳の女性が警察官に取り押さえられたあと、直後に意識を失って死亡が確認されました。
警察が司法解剖を行った結果、死因は「急性心機能不全」だったということです。
病気などによる内因死とみられていて、女性に対しての警察官による制圧行為が直接的な死因ではないとしています。
当時、現場付近にいた目撃者から「女性が叫んでいる」と警察に通報があり、駆けつけた警察官は、裸で奇声をあげていた女性を発見。
その後、保護の必要があると判断し、男性警察官2人が女性をうつぶせにして、背中や手を押さえるように取り押さえたということです。
しかし、女性はその直後に意識を失い、午前4時すぎに病院へ搬送。約5時間後に死亡が確認されました。
司法解剖では、アルコールや薬物などは検出されていないということです。

 やはり2010年強制送還の途中に空港でガーナ人スラジュさんが入管職員に殺された事件を思い出してしまう。

www.call4.jp

国は、スラジュさんの死は、スラジュさんの心臓にあった極めて特殊な腫瘍による突然死だと主張した。
そんなバカな、である。手足を拘束し、何人もの男性職員が力の限り制圧しただけでなく、首を強く押さえつける中で息絶えているというのに、まさにその瞬間に、それまで問題なかった心臓の奇病が現実化して亡くなった、という主張である。そんな常識に反する奇想天外のストーリーを一体誰が信じるだろうか、私たちは国が提出した書面を見てそう思った。

結局裁判ではこの「奇想天外のストーリー」が通ってしまい、高裁で逆転敗訴。最高裁で判決が確定してしまった。

 20年ほど前だが、これもひどい事件。
ja.wikipedia.org


www.tokyo-np.co.jp

弁護団のメンバーだった藤岡毅弁護士はそもそもを問い直す。「『精神錯乱』とすれば、後ろ手に手錠をかけ、荒縄で足を縛っても『保護』として許される。これがまかり通るなら法自体がおかしいと言わざるを得ない」

 このような事件、調べたらどんどん出てくる。
 これは2019年病院に移動するパトカー内で警察官に押さえつけられて死亡した統合失調症の30代男性の事件。遺族が府に賠償を求めた訴訟で、今年1月に大阪地裁(山本拓裁判長)で、原告の請求棄却の判決
digital.asahi.com

 こちらは警官によるものではないが、2018年に都内の大学付属の精神科病院に任意入院していた男性(当時40)が翌日に退院を求め、壁に頭を打ち付けるなどし、廊下に出たところを医師ら5人が取り押さえ死亡した事件。男性の両親が病院側に約8600万円の損害賠償を求めた訴訟で、今年2月東京地裁(男沢聡子裁判長)で両親の請求を棄却する判決
digital.asahi.com

 2004年にはこの事件も。
ja.wikipedia.org

入管はいい加減もう悪あがきをやめて諦めるべきだ

 政府は2028年度中に、外国人の入国の可否を事前審査する「電子渡航認証制度(JESTA)」の運用を始める。鈴木馨祐法相が23日、同制度の早期導入を含め、入国から出国までの対応を厳格化する七つの政策を「不法滞在者ゼロプラン」として発表した。
 鈴木氏は23日の閣議後会見で「ルールを守らない外国人に係る報道がなされるなど、国民の間で不安が高まり、対応が強く求められている」と述べた。鈴木氏が3月、神田潤一法務政務官に検討を指示していた。
 出入国在留管理庁によると、退去強制の処分が確定した外国人は昨年末時点で3122人。同プランにより、30年末までに半減をめざすという。

 1980年代後半、人手不足の日本でオーバーステイは黙認されていた。警察に職務質問されても「頑張って稼げよ」などと言われて解放された(多くの証言がある)。ピークの1993年は約30万人もいた。当時日本は、「不法」状態の外国人労働者を作り出して都合よく働かせていたのだ。そうして呼んでおいて、2000年代になると今度は追放しようとする。それまでマスコミなどで「外国人労働者」と呼ばれていた非正規滞在の外国人を、警察や入管は「不法外国人」「不法滞在者」などと呼んで、危険な存在であるというキャンペーンをはじめた。そして、2003年に「不法滞在者5年半減計画」が実施され、オーバーステイ外国人が摘発、送還によって「減らされて」いった(同時に、このとき入管は大量に在特を出して「減らした」ことも忘れてはならない)。
 しかし、帰国しろと言われても帰国できない人々(難民・家族が日本にいる・生活基盤が日本にしかない)の中で、収容 、仮放免、再収容の繰り返しを耐え、ハンストやデモで闘ってきた3000人が残った。この「送還できない/してはいけない」人々を、入管は性懲りもなく20年間「送還によってのみ」何度も「減らそう」としてきた。その中で多くの人が殺された。そして、今また入管は「安心安全のため不法滞在者を5年で半減」などと使い古されたフレーズで同じことをやろうとしている。今度は「ゼロプラン」とは「最終解決」のつもりだろうか?そんなに「不法」状態の人を減らしたいなら、在特を出したり国際基準で難民認定して合法化(正規化)すればよい。いやその方法しかないのだ。現行法で今すぐできる。仮放免者は何度でも闘うだろう。入管はいい加減もう悪あがきをやめて諦めるべきだ。

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「人々の恐怖心こそが怖い」について

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(↑プレゼント記事にしました)

 医療従事者への差別・偏見はだめに決まっているし、過重労働も避けるべきに決まっている。が、この人は「人々の恐怖心」が悪い、みたいな書き方で、しかも「さっさと5類にしなかったから人々の恐怖心が高まり我々も大変になった」みたいなことを言う。しかしこの人自身が「当時は検査対象をしぼっていた」と書いている。いやそれが「人々の恐怖心」を高めた大きな原因だったし、恐怖心さえなくなれば問題解決なわけない。

感染症には、誰もが感染する可能性があります。過剰に「恐ろしい病気」と意識することをやめ、「我がこと」と考えてほしい。

 だって?で今どうなっているかというと、「行政」による5類化や、この人のように「オミクロン株の流行後、コロナに感染した人の症状は確実に軽くなった」と言う医療従事者の言葉などがすべて、人々から「恐怖心を過剰に取り除く」メッセージになり、結果みんなノーマスクでなんの対策もしなくなりその中で今でも年間数万人のコロナ死および後遺症のステルス増加。
 なんだか過去形で今後の反省点みたいな言い方だけど、コロナ禍は結局、「人々の恐怖心さえ取り除いてしまえば楽勝」という「成功体験」になっている。それって「治療をやめて痛み止めだけ打っておけば問題解決」と何も変わらない。
 ある哲学者が書いた哲学入門を読んでいたら、コロナ禍について書いている箇所で、この人と同じような「病気は誰もがかかるものです。病気の人を責めてはいけません」みたいなことが書いてあった。いやそれで終わってはだめでしょう…。
 「病気は誰もがかかるものです。落ち着いて病気を受け入れましょう」を言う人は、続いて「誰もが死ぬものです。落ち着いて死を受け入れましょう」と言うことになる。そういう人は大体「安楽死」「尊厳死」に寛容だ。
 しかし、「病気や死を受け入れよ」と高みから「人々」に説きたがる人たち限って、病気や死を恐れる必要があまりない身分だったりする。そして「人々」が落ち着いて病気や死を受け入れることで、得をしてほくそ笑んでいる人たちがいるのだ。

電話は連日、保健所にかかってきました。当時は検査対象をしぼっていたので、「あなたは検査対象にならない」と伝えると、怒鳴られることもしばしば。
(……)
私たち保健所職員は、自宅療養者が増えた頃から「(感染症法上の)5類になるんだろう」と思っていました。(……)オミクロン株の流行後、コロナに感染した人の症状は確実に軽くなったと感じました。(……)それでも「入院勧告=隔離措置」は続きました。行政措置がとられる病気に人々は、恐怖心を持ちがちです。そうした病気への対応は「行政がすべきだ」と考える医療機関もあったのではないでしょうか。蔓延後もコロナ患者が受診できる医療機関は限られ、負担の偏りが続きました。
(……)
感染症には、誰もが感染する可能性があります。過剰に「恐ろしい病気」と意識することをやめ、「我がこと」と考えてほしい。

コロナによる死者とインフルエンザによる死者の比較グラフ。コロナによる死者は、いまでも毎年数万人であることがわかる。

「スマホ」の謎

 外来語の略語は、「モンハン=モン(スター)・ハン(ター)」「カラコン=カラ(ー)・コン(タクトレンズ)」「ガンプラ=ガン(ダム)・プラ(モデル)」など、各単語の最初の二文字をつなげる、という作り方が標準だと思っていたが、様々な例外がある。
 外来語の略語として最初に思いつくような気がする「パソコン」は、「パ(ー)ソ(ナル)・コン(ピューター)」だから「パーソナル」の1文字目と3文字目を取っている。結構特殊だ。「パー券=パー(ティー)券」もあるのだから、なぜ「パーコン」にならなかったのか。
 また「スマホ=スマ(ート)・ホ(ン)」も、なぜ「スマホン」ではないのか謎。「ガラケー=ガラ(パゴス)・ケー(タイ)」は、「ガラケ」ではないのに。ただ、3文字(3拍)の略語もあるといえばある。たとえば「アコギ=アコ(ースティック)・ギ(ター)」「エレベ=エレ(クトリック)・ベ(ース)」などは、「アコギタ」「エレベー」とは言わない。
 楽器関係では「ベーアン=ベー(ス)・アン(プ)」はまだわかるのだが、「ギーアン=ギ(タ)ー・アン(プ)」は「ギタアン」ではないというのも謎。言いにくいからか、ベーアンから派生したからかもしれないが。
 などと考えたところで検索したら以下の論文がヒットした。
林慧君「外来語の複合語における略語の語構成」(九州大学国語国文学会「語文研究」97 1-16、2004年)

本稿では、「外来語の複合語」の略語を、その語形成過程の違 いを考慮して、次の如く分類する。
ア 省略語基の複合による略語
 例:ロケ+バス→ロケバス
  コンビニ+店→コンビニ店
イ 複合語の短縮
 1 複合語短縮:複合語の構成単位の一部が省略されるもの
  例:アパートマンション→アパマン
  ビニール傘→ビニ傘
 2 複合語語省略:複合語の構成単位の一方の語が省略されるもの
 例:マグカップ→マグ
  ツートンカラー→ツートン

 なるほど。コンビニの例だと、「ア」が「コンビニ店」、「イ−1」が「ファミリーマート→ファミマ」、「イ−2」が「セブンイレブン→セブン」となる。
 そして論文の著者は、この「複合語短縮」においては、「パソ+コン」のような、「2拍+2拍」のパターンが典型的である、と言う。著者はさらにこの短縮のパターンを以下の6種類に分けている。

1 [a( )+b( )]
 例:エンスト=「エン(ジン)スト(ップ)」
2 [( )a+( )b]
 例:億ション=「(一)億(マン)ション」
3 [a( )+( )b]
 例:パソドル=「パソ(コン)(アイ)ドル」
4 [A+b( )]
 例:ノーヘル=「ノーヘル(メット)」
5 [A+( )b]
 例:ロムドル=「ロム(アイ)ドル」
6 [a( )+B]
 例:パトカー=「パト(ロール)カー

 さて、上記論文著者の林慧君氏による、複合語短縮において「2拍+2拍」のパターンが多い、という主張であるが、確かにそうだろうと思うものの、最初にあげたように、「スマホ」などの「2拍+1拍」のパターンも、結構ある。そして、これは単なる私のカンでしかないが、「スマホ」「スタバ」「パリピ」「タイパ」「陽キャ」と並べてみると、もしかすると「2拍+1拍」で3拍の略語(複合語短縮)がちょっと流行りなのではないだろうか。若者は4拍だとちょっと野暮ったく感じるのかもしれない。というわけで、上記論文では扱われていない「2拍+1拍」の略語について分析してみたい。
 その前に、なぜ外来語の略語(複合語短縮)で「2拍+2拍」のパターンが多いか、ということだが、これはおそらく、2字漢語が「2拍+2拍」のパターンが多いがゆえに、そこに引きずられているのではないか。しかし、2字漢語は他に「2拍+1拍、1拍+2拍、1拍+1拍」もある(逆に言うとそれ以外にない)。それぞれ例示すると

2拍+2拍
 闘争(トウソウ)、組合(クミアイ)、活動(カツドウ)、革命(カクメイ)

2拍+1拍
 反旗(ハンキ)、幹部(カンブ)、党紀(トウキ)、任務(ニンム)

1拍+2拍
 査問(サモン)、指弾(シダン)、市民(シミン)

1拍+1拍
 書紀(ショキ)、支部(シブ)、異議(イギ)

など。
漢字二字の略語の場合もそうだ。

2拍+2拍
 街宣(ガイセン)=街(頭)宣(伝)、万博(バンパク)=万(国)博(覧会)、原発(ゲンパツ)=原(子力)発(電所)*1

2拍+1拍
 労組(ロウソ)=労(働)組(合)*2、安保(アンポ)=安(全)保(障)、外資(ガイシ)=外(国)資(本)、

1拍+2拍
 科博(カハク)=科(学)博(物館)

1拍+1拍
 科技(カギ)大=科(学)技(術)大
※後ろに「大」がついているがこれしか思いつかない。

 では、外来語の「2拍+1拍」の略語について(一部それ以外も入っている)。
1拍が「ア行」
 南ア=南ア(フリカ)
 ※これぐらいしか思いつかなかった。アメリカは、アメ(リカ)横(丁)のように2拍になる。

1拍が「カ行」
 トレカ=トレ(ーディング)カ(ード)
 コミケ=コミ(ック)(マー)ケ(ット)
 レイコ=冷コ(ーヒー)
 ※コミケは、まずコミック+マーケットで「コミケット」という造語が作られ、そこからさらに(ット)が省略されてできたのであろう。

1拍が「ガ行」
 エロゲ=エロゲ(ーム)、サバゲ=サバ(イバル)ゲ(ーム)、ネトゲ=ネ(ッ)トゲ(ーム)等
 アコギ=アコ(ースティック)ギ(ター)
 ※「エロゲー」など4拍の言い方もあるが、なんとなく3拍のほうが今っぽい印象がある。

1拍が「サ行」
 ファンサ=ファンサ(ービス)、はてサ=はて(な)サ(ヨク)
 セリーグ=セ(ントラル)リーグ
 ギョニソ=ぎょに(く)ソ(ーセージ)、ソ連=ソ(ビエト)連(邦)
 ※「はてサ」は死語か……。ていうかサヨクはカタカナだけど外来語ではなかった。セリーグは1拍+3拍。ソ連は1拍+2拍。テニサー=テニ(ス)サー(クル)などは、テニサではなくテニサーと4拍。ギョニソの「ギョニ」は、「肉」という漢字をぶった切って省略するというめちゃくちゃなやり方。ソ連は、なぜ「ソビ連」にならなかったのかわからないが、ソビ連では語呂が悪いかもしれない。

1拍が「ダ行」
 はてダ=はて(な)ダ(イアリー)
 ドイデ=ド(イツ)イデ(オロギー)
 ※どちらも死語か……。ドイデは1拍+2拍。

1拍が「ナ行」
 ナリーグ=ナ(ショナル)リーグ
 ※これぐらいしか思いつかず。1拍+3拍。

1拍が「ハ行」
 スマホ=スマ(ート)ホ(ン)、ロイホ=ロイ(ヤル)ホ(スト)、オナホ=オナ(ニー)ホ(ール)
 ※「ホ」しか思いつかず。下品なものも入ってしまって申し訳ない。しかし、スマホは外来語の略語で最も使われているものだろう。

1拍が「バ行」
 スタバ=スタ(ー)バ(ックス)
 ソフビ=ソフ(ト)ビ(ニール)
 はてブ=はて(な)ブ(ックマーク)
 エレベ=エレ(クトリック)ベ(ース)
 ※はてブは死語。

1拍が「パ行」
 タイパ=タイ(ム)パ(フォーマンス)、タコパ=たこ(焼き)パ(ーティー)、ダンパ=ダン(ス)パ(ーティー)等
 パリピ=パ(ー)リ(ー)ピ(ープル)、ヘソピ=へそピ(アス)
 ナメプ=なめ(た)プ(レイ)
 カンペ=カン(ニング)ペ(ーパー)、トレペ=トレ(ーシング)ペ(ーパー)
 ※ダンパなどは、3拍だけどかなり古くからある略語のようだ。もしかして3拍略語ブームはリバイバルなのかな。少し古い「コスプレ」などは「なめプ」と同じ「プレイ」を使っているのに4拍。やはり3拍流行りか。

1拍が「マ行」
 ファミマ=ファミ(リー)マ(ート)、フリマ=フリ(ー)マ(ーケット)、ブクマ=ブ(ッ)クマ(ーク)
 ロイミ=ロイ(ヤル)ミ(ルクティー)
 写メ=写(真)メ(ール)
 ドクモ=読(者)モ(デル)
 ※「写メ」は外来語の略語では珍しい「1拍+1拍」の語だと思う。私はこれしか思いつかなかった。

1拍が「ヤ行」
 思いつかず

1拍が「ラ行」
 イラレ=イラ(スト)レ(ーター)、東レ=東(洋)レ(ーヨン)
 ※イラレはアドビのソフトの場合だけこう略される。

1拍が「ワ行」
 ※思いつかず。長音がつくと「ワープロ」「ワーホリ」などある。

1拍が「キャ行」
 陽キャ=「陽(気な)キャ(ラクター)」
 ※少し古い「ゆるキャラ」は同じ「キャラクター」が入っているが4拍。やはり3拍流行りか。

1拍が「ギャ行」
 バンギャ=バン(ド)ギャ(ル)

一泊が「シャ行」
 スクショ=スク(リーン)ショ(ット)

1拍が「ジャ行」
 朝ジャ=朝(日)ジャ(ーナル)

 ところで、「ハンスト=ハン(ガー)スト(ライキ)」の「ハン」「スト」のように、前後の要素をそれぞれ2拍に切り詰める時は、だいたい元の要素の前から2文字を取り出す形で作られる。しかし、「パソコン」の「パソ=パ(ー)ソ(ナル)」のように、長音を省略した上で2拍取り出す場合もある。この例としては「マケプレ=マ(ー)ケ(ット)プレ(イス)」、「ミニモニ=ミニモ(ー)ニ(ング娘。)」などがある。
また、ネトウヨ=ネ(ッ)トウヨ(ク)、ネトフリ=ネ(ッ)トフリ(ックス)のように、促音を省略する場合もある。そもそも「ネット」自体が、「インターネット」の前半を省略したものだろうけど。「インター」になると「インターナショナル」か、または「インターチェンジ」になってしまう。
 その他思いついた促音省略は、「バク転=バ(ッ)ク転」、「完パケ=完(全)パ(ッ)ケ(ージ)」「キメセク=(薬を)キメ(た)セ(ッ)ク(ス)」がある。
 「ネット=(インター)ネット」のように、前半を切り捨てる略語というのもいくつかあって、「メット=(ヘル)メット」、「ケット=(ブラン)ケット」、「リーマン=(サラ)リーマン」などがある。比較的少数だと思うのだが、その中で「ネット」だけは非常に普及している。「インター」がすでに使われていたからかもしれない。外来語ではなければ、隠語的なものに、前半切り捨て型がよくある。「サツ=(警)察」、「ダチ=(友)達」などである。
 隠語的な略語には変わったものも多い。例えば私は吸わないが、タバコの銘柄略語。
「マイセン=マイ(ルド)セ(ブ)ン」は、「マイセブ」でも「マイセ」でもなくなぜか「マイセン」。「セッタ=セ(ブンス)タ(ー)」こちらは、促音「ッ」を付加して3拍にしている。

*1:バンハク、ゲンハツではなく「パ」という半濁音になるのは、和語における連濁と似た現象だが、漢語の場合半濁音になる。これについて述べるのは他日に期したい。連濁については過去記事「韓国人の発音はすべて半濁音」という珍説 - 猿虎日記を参照されたい。

*2:ロウクミと4拍で読む人もいるようだ

ドラマ「クジャクのダンス、誰が見た?」第5話

 今回は、ほぼ原作第4巻でした。あいかわらず細かいところも原作どおりにしていて原作ファンはにやっとするところだらけでしたが、しかも今回はエピソード順の入れ替えもほとんどなかったような。今回は、入れ替えより省略がやや目立ちました。一つは、松風の子ども時代の回想シーン。波佐見との出会いが省略されていましたが、今後どこかで出てくるのでしょうか。もう一つは、林川家の過去を描くシーン。いろいろ省略されていましたが、この林川家の話は、やや込み入っていて、原作を読んだ時、私は読み返さないとぱっと頭に入ってこなかったです。なので、ドラマの場合あのぐらい省略するのが正解なのかもしれません。
 唯一、原作と大きく(というほどでもないのですが)変わっているところ、としては、今回初登場の松風の父、久世正勝の年齢です。原作4巻のラストは、赤沢が、松風が久世の息子であることを知るシーンです。そこで赤沢は久世のことを思い出すのですが、そのときの赤沢の脳内の久世のセリフは、原作では「赤沢さん、私はずっと見てますよ」なのですが、ドラマでは、同じシーンが「赤沢、俺はずっと見てるぞ」に変わっていました。ここからは、ちょっとネタバレというか次回の話の先取りに一部なってしまうのですが、原作では、久世はかつて赤沢の部下(ないし後輩)だった、という設定なので、久世のセリフは「赤沢さん」になっています。しかし、ドラマでは、逆に赤沢が久世の部下だった、という設定になっているのかもしれません。だから「赤沢」となっているのだと思います。そう推測するのは、俳優の年齢からでもあります。赤沢役の藤本隆宏さんは1970年生まれの54歳ですが、久世役の篠井英介さんは1958年生まれの66歳です。原作どおりだとすると、次回のドラマで赤沢と久世の過去を描くシーンが出てくるはずなのですが、別の俳優を使うのでなければ、久世が赤沢の部下だとちょっと無理があると思います。ただ、ちょっとおかしいな、と思うのが、久世が窃盗の疑いで懲戒免職になったニュースの画面、当時の久世の年齢が、ドラマでは「30代」原作は「34歳」となっています。次回、66歳の篠井英介さんが、回想シーンで30代の警官を演じるのでしょうか。篠井さんには失礼かもしれませんが、それはそれでちょっと無理があるような……。まあでも、今回久世の妻、つまり松風の母も、10歳くらいの松風とともに回想シーンで登場しましたが、当時おそらく30代という設定の母を演じていたのは、篠井英介さんと同じ1958年生まれ66歳の宮崎美子さんだったので、なんとかなるのかもしれません。
 また、原作では赤沢と久世の年齢ははっきりと書かれていなかったような気がするのですが、もしドラマ版の世界で俳優の年齢と同じだとすると、赤沢と久世が同僚だったころは32年前、ならば当時赤沢は22歳ぐらい、つまりほんとの新人警官だった、ということになります。だとすると、次回出てくるはずの過去の赤沢のエピソード、これもちょっと無理があるような気がするのですが。
 と思ったら、ドラマ版で秋貞が赤沢に見せる久世についての資料に、久世の生年月日と、窃盗事件発生の年が書いてあるのが読めました(漫画版の場合、資料の文字は読めません)。それによると、久世は1959年11月9日生まれの65歳(篠井英介さんの現実の年齢の1歳下でした)、窃盗事件発生は1999年、ということです。ならば、窃盗事件当時久世は39歳〜40歳です。ニュース画面が「30代」になっていたということは、39歳で確定ですね。ということはドラマ版の久世は漫画版の久世よりも5歳年上、ということになります。またもしドラマ版赤沢が藤本隆宏さんと同じ1970年生まれならば、1999年に彼は28歳〜29歳ということですね。
 まあとにかく次回、赤沢と久世の関係がどう描かれるのか、ちょっと注目してみてみたいと思います。
 あ、あと、阿南が謎の男と会話するシーンと、ドラマラストで心麦が久世とすれ違っていた、というシーン、これは原作にはなかったです。それから、原作では、京子が出来上がった唐揚げを心麦のアパートに持っていく、だったのが、ドラマでは心麦のアパートで京子と心麦が唐揚げを調理する、に変わっていましたね。