世論と朝生

 ゆうべは、「朝まで生テレビ」をなんとなくちょっとだけ見てしまった。まえにも書いたけど、私はあの番組が苦手です。私は大変人間の器が小さい人間なので、筑紫哲也にくってかかるお父さんじゃないけど、カッパのペラペラしゃべりに逆上してテレビを破壊したりしてしまうのです。ずいぶん久しぶりに見たのですが、今回はパソコンのモニターで見たので、さすがに破壊することもなく(て、テレビも普通破壊せんが)、しかも、今回は見ていてとくに腹も立ちませんでした。といって、面白かったかというと全然そんなことはなく、なんだかわびしい気分になって、途中で見るのをやめました。あんまり腹が立たなかったのは、煽り役の田原がいなかったからかなあ。
 カッパは、「対北朝鮮外交カードを考える会」の中心メンバーであり、日本単独で北朝鮮への経済制裁が出来る外為法改正、万景峰号の入港を阻止するための「特定外国船舶入港禁止法」を推進する、対北朝鮮強行派のカッパです。いや、だと思っていました。が、昨日ちょっと見ていたかぎり、なんか様子が違うのです。彼は今回、自民党の代表として、コイズミ訪朝を一定評価する、というような立場に立たされており、「コイズミ訪朝は失敗だ!屈辱外交だ!」とわめく他の出演者にさんざん叩かれてしどろもどろになっていました。森内閣がしたコメ支援は完全に失敗だったが、その時お前は責任者の一人だったではないか、みたいに突っ込まれてかなり痛々しいいいわけをしていました。カッパの器はやっぱり小さかった。いやカッパだから皿が小さかったか(ベタですまん)。なんか、哀れになってきました。ま、カッパのことはいいです。あと、声を裏返らせながら机をバンバンたたく勝谷某とか(興奮したサルのようだった)、超〜〜キモイというか、ウザかったですが、まあいいです。腹たつというより悲しくなった。
 それはとにかく、私が途中の一部を見た印象では、議論の流れはこんな感じになっているようでした。すなわち、コイズミ訪朝は失敗であり、それを、お人好しの国民が「よかったよかった」などと支持してしまったのは憂慮すべきことだ、という感じの流れに。
 さて、ここに出演するような人たちが、「国益が…」「国益の…」「国液は…」「濃く液を…」と連呼し、外交「戦略」がどうの、外交「カード」を切っただの切られただの、んな話を飽きもせず何時間もやっていたのは、まあ、いつものことだなあ、と見ていたわけですが、今回気づいたのは、彼らのテーマは「国益」の他にもう一つ、「世論」なんだな、てこと。
 つまり、長期的な「国益」を考える能力もなく、外交戦略のノウハウも知らず、お人好しの素人である「国民」が、心情的に、マスコミ報道に流されて、愚かな「世論」を形成し、コイズミを支持してしまう。そこが大いに問題だ、というような話題が、繰り返し出されていたように思う。
 そういう意味では、前々回の私の日記のような、北朝鮮人道支援」に関する話は、非常にナイーブでどうしようもない話だ、と彼らには言われてしまうのだろうな。「北朝鮮の人々がかわいそうだからコメ支援いいじゃないか」なんていうのは、何にもわかってないバカの証拠、とかね。まあいいや。で、印象的だったのが、宮台先生と小林よしりんの対決シーン。記憶で書こうと思ったのだけど一応録画したので、起こしておこう*1

宮台 (……)世論が政府の縛りになる。世論はいつも関係があるのですね。世論をどうコントロールするかってことは、極めて、重要。それについてまず、失敗を……
小林 世論なんかもうすぐ変わるんだってそんなものは。いちいち世論ばっかりね……やるのはポピュリズムに走るんだよ!
●$%#&■!!△!!(双方発言して混乱)
宮台 いいですか、世論をどういうふうにコントロールするのかが自分たちのフリーハンドを縛るのだからそれは当たり前なんですよ!(`Д´)重要なのは。ね。
小林(ため息)こんなに世論を次から次に調べるようになったね、マスコミっていうのはちょっと異常だよ。
■!△%#●$&!!!(双方発言して混乱)
宮台 まったく誤解している。世論に追従するべきだと言っているのではなくて世論をコントロールしろと言ってるわけ。
小林 コントロールうぅ?(−−メ)
宮台 要はですね、外交交渉っていうのはですね、我々国民が評価する対象なんだからあ、例えば何をやったかってことじゃなくて、それについてどういう説明を政策担当者が与えるかが重要なんで……
小林 違う違う、全然違う! 小泉に関して説明なんかいらないの。小泉のファンなんだから。小泉ポピュリズムになってて、小泉が民主党になって民主党の政策言えばみんな小泉に追随するの!
宮台 だからそれはダメだって僕は言ってるわけ!

 ……もうやめよう。きりがない。世論に追従するな、というのと世論をコントロールするべし、という二人は対立しているようでなんかあまりそうは見えない。すなわち、彼らは自分が「世論」なるものについて云々する世論の外にいる人間であると思っている点で共通している(まあいろいろ反論はありそうだけど)。だけど、どうなんだろうなあ……。そもそも、「世論」て何? 
 会場には視聴者からfaxなどで送られてくるの意見が書かれたボードがある。そこにかいてあるのはというと

軍事力をもって解決をするべき
拉致問題が解決するまでは米、経済支援をしない
北朝鮮の不当な要求には応じずにアメリカと協力すべき
次回の日朝交渉には金正日が来日して欲しい

 これは、世論?世論じゃない? これが仮に世論としますね、すると、これらの世論の持ち主たちはつまりこの番組を見てる、てことです(見たからfax送ったのであって、当たり前)。ていうか、朝生って、みんな見てますよね。もちろん、新聞なんか読まない、ニュースなんか見ない、という剛毅な方々(見習わなくてはいけない?)も世の中にはい〜〜っぱいいるのは分かってます。そういう人々は朝生も見ないでしょう。が、私の周りを見回すと、ちょっとでも社会や政治というものに関心がある人の、この番組の視聴率は非常に高いような印象があります。つまり、朝生を見るような人はみんな朝生を見ている(あたりまえ)。が、世論というのは「朝生を見るような人たち」の意見とは違うの?だとすると、その、世論を担う人々である「国民」の方々は、みんな「世論をコントロールすべきなんですよ!」なんていう番組を見ている。そして彼らはどう思うのだろうか。「そうそう、私たちの世論をコントロールしてちょうだい!宮台センセイ!もうどうにでもして!濃く液をちょうだい(下品ですまん!)」などと思っているわけがない。おそらくみんな、宮台センセイ、よしりん、カッパ、などのどれかに同化して、「そうだそうだ、まったくこの人は外交というものをわかってないね」とか言ってテレビの前で出演者にくってかかったりしているのだろう。
 そういえば人質事件の時も、急にみんな専門家ぶりはじめて、何年もイラクで生活してきた人たちに対して、「危機管理がなってない」とか言いだしてましたね。ま、でも今にはじまったことじゃないか。テレビを見ながらみんな昔から専門家気取りでこんな風に言ってた。

今日の小泉は変化球のキレが悪いね。
安倍晋三、ここは引っ張るなよ。右ねらいで行け!
金正日には変化球から入るのが鉄則じゃないか。
福田、なんだその配球は!

 みんな、コントロールされる側だなんてこれっぽちも思っていなくて、「カードを切る」側と自分を同化している。そうして、いっぱしの外交戦略家きどりで、朝生を見ているに決まっているではないですか。しかし、とすると、世論をコントロールする側と思っている人たちの形成する世論、というのは何と呼べばいいのだろうか。世論論?
 あるいはこうも言える。「世論をコントロールしている気分を持つ」ようにコントロールされている、いやもっと言えば、「コントロールされていない」と思うようにコントロールされている……。そして、朝生はまさに、そうしたメタコントロールの道具になっているのではないだろうか?ま、巧妙なコントロールはみんなそうですよね。コントロールがばれたらコントロールにならないもの。
 てなことを考えながら、たまっていた新聞を読んでいたら、木曜日の朝日夕刊に、法政大教授杉田敦*2が、「小泉訪朝から再訪朝まで――『世論対策』政治の行方――『操作』への違和感広がる今、正攻法を」というコラムを書いていました。

 ところで、世論操作的なものが、今に始まったことではなく、日本だけの現象でもないとしても、このところ、なぜそれが目につくようになったのだろうか。(……)
 いずれにせよ、こうした政治のスタイルがそう長続きするとは思われない。人々は、自分たちが世論操作の対象とされることに、違和感を持ち始めている。情報を小出しにし、争点を隠して、支持だけを調達しようとするような政治は、いつか世論に見放されかねない。そうならないためにも、政策論を軸にした正攻法の政治への脱皮が望まれるところである。(朝日新聞東京版2004年4月27日16面)

 うーん、そうかなあ。「人々は、自分たちが世論操作の対象とされることに、違和感を持ち始めている」のかなあ。というか、はじめから、世論操作の対象どころか、どっちかというと操作「する」側のつもりになっているのではないかな。そして、いっぱしの「政策論」をたたかわせているつもりになっているのではないかなあ……。
 ……ま、いいや、長くなりすぎたので今日のところはこの辺で。朝生と違って誰も読んでいない日記を終わることにしよう。

*1:朝生なんてどうでもいいとかいいつつなんでこんなに一生懸命やってるんだろう、俺。

*2:なんか名前を聞いたことがあると思ったら、しばらく前、この人が書いた岩波「思考のフロンティア」『権力』を読んでいたのでした[この本はとてもわかりやすかったという印象があります]