平目の寝床

 タブラー*1本と屁爆弾さんの日記に触発されて、私も睡眠にまつわる話題をば。
 屁爆弾さんの場合、寝台の「横幅」と「縦幅」が問題でしたが、私のこれから書く話においては寝台の「高さ」が問題でした。
 ここに引っ越した時だから、もう7年ぐらい前のことです。引っ越しする前の家は、尋常でないほど散らかっていました。少し広い部屋に引っ越すことを機会に、収納のことを考えよう、と私は考えました。考えてみれば、私は昔から、収納はしないのに収納の工夫だけはする、という人間でした。で、友人のアドバイスもあり、某通信販売会社で、ハイベッド(ロフトベッド)というものを購入しました。これは、高床式、という形容が一番しっくりするのですが、要は二段ベッドの一段目がないもの、という感じで、ベッドの下の空間を有効に使うことができる、というものです。私の場合そこにデジタルピアノを置く予定でした(今でも置いてあります)。商品は、注文してすぐに届きました。スチール製で、たしか二万円ぐらいだったと思います。ベッド全体の高さは約190cm。床から寝台面までの高さは約170cmと、かなり高いです。しかし、私の部屋は床から天井までの高さが2m30cm。十分入る。その辺はぬかりない……はずでした。さて、早速組み立てて、横になってみました。思った以上に高いので、びっくりしました。ベッドから乗り出して下を見ると軽く恐怖感を感じるほどです。一応防護柵のようなものはついてるのですが、墜ちたらどうしよう。下手すると死ぬんじゃないだろうか(屁爆弾さんは絶対やめた方がいいですね)。まあでも、そのうちなれるだろう、と、何日かそのまま利用していました。ところが、実際に使用してみると、重大な問題点があることに気が付いたのです。それは、寝台面から天井までの距離の問題です。2m30cmマイナス170cmということで60cm。幸い、私の体の厚さは60cmもないので、それだけの空間があれば、十分横になって眠ることができます。問題は、起きたときなのです。つまり、要するに私の座高が60cmを越えているが故に、起きあがったときに上体を垂直にすることができない。これが思ったより苦しい、ということがわかりました。いわゆる「ガバッ!」という擬態語で表現されるような具合に勢い良く上体を起こしたならば、確実に頭部、というか顔面を天井によって強打する、というような状態なわけです。したがいまして、起きてベッドから降りるときが大変です。状態をナナメに起こしたままで、うまく体をひねって、足を梯子に掛け、降りる、と。腹筋は鍛えられるかもしれませんが、これはたまりません。また、ベッドの上であぐらをかく、というようなことも一切出来ません。何より天井が目の前にあるので圧迫感があります。これは何とかしなければ、と思ったのですが、いまさら返品できないし……。
 というわけでどうしたかというと、ベッドの高さを低くすることにしました。脚を切るのです。え?スチール製じゃないかって? はい。金鋸を買ってきました。それを使って、ゴリゴリと切っていきます。が、脚は直径5cmほどもあり、かなり厚いスチールのパイプなので、そう簡単には切れません。10分ぐらい、ゴリゴリ、ゴリゴリ、ゴリゴリ、とやっても、せいぜい1cmぐらいしか切れない感じです。途方にくれましたが、とにかくやるしかない。その日から作業が始まりました。
 いっぺんに切ることはとてもじゃないが無理なので、毎晩就寝前、ゴリゴリ、ゴリゴリ、と10分ほど切断作業をやって、寝る、という繰り返しでした。一本の脚を完全に切り離してしまうと、ベッドが傾いてしまうので、八割方切れた段階で次の脚に移ります(厚いスチール製なので、折れたりすることはありませんでした)。そうやって、少しずつ四本の脚を切っていき、最終日は、それぞれの脚に切り残してあった部分を頑張って一気に切断し、無事切断作業を終了しました。期間は、一ヶ月ぐらいかかったと思います。今計算すると、直径5cmということは周囲約15cm、×4ということで60cm、それを一ヶ月で切ったとすると、一回で2〜3cmは切っていたのですね。切り落とした脚は、捨ててしまったのでわからないのですが*2、記憶だと長さは25cmから30cmだったと思います。というわけで、天井との高さは90cmとなり、「起きあがる」ことができるようになりました(それでもぎりぎりなのですが*3)。
 さて、この作業をしていた間、私がどんな気分だったか。猟奇的なものを想像した人もいるかもしれませんが、この場合は金属ですので、そう、気分は脱獄囚、というやつです。脱獄シーンが登場する文学作品と言えば……文学的教養がない私には、小学校のころ(たぶん子供向けにリライトされたもので)読んだ『厳窟王モンテ・クリスト伯)』*4しか思いつきません。でもあれは穴ほるんでしたっけ?(覚えてない) 鉄格子を少しずつ切っていく、という脱獄方法は、定番のような気がするのですが、どこで見たんでしょうかね。
 というわけで、そんな暇ないのに、長文になってしまった……。

※追記
 そういえば、ドジの語源てなんだろう、と思って調べたら、何とフランス語でした!というのは真っ赤な嘘で、<1>「鈍遅(どんち)」という言葉が訛った<2>「とちり」の発音が「鈍(どん)」と重なって「どじ」となった<3>頼りない動作のことを「ドヂドヂ」と表現するので、それを短くして言うようになったとありました(http://www3.kcn.ne.jp/~jarry/jkou/ii094.html

>ベッドの足はよほど正確に切らないとガタツキが発生しそうですよね。

 いや、ガタツキは多少あります。が、ですね、それは元々なのです。安物のパイプベッドで、しかも高さがあるとなると、どうしても多少ぐらぐらします。そういうことも買ってみないとわからないものです。私は慣れましたが、少しでもぐらつきがあると気になって寝られない、というようなタイプの方には、ハイベッド(安物)はお薦めしません。というわけで、私の場合、脚を切って重心が下がった分、むしろちょっと安定したかな、という気もします。

>それとベッドが低くなった分、下のデジタルピアノを楽しむための空間には影響がないのかな、

 これも鋭いご指摘です。その通り。けっこう狭いです。が、ぎりぎり演奏には支障がないかな、という感じ。ただし、興が乗ってきたら弾きながら腰を浮かせ「ににににン!ににににン!……あ゛ーッ!!」と叫ぶ、というようなキース・ジャレットのまねはけっしてできません。頭頂部を強打するでしょう。叫び声はやろうと思えばできますが、近所から苦情がくると思います。

*1:北インドの打楽器であるタブラ奏者のことである。勝手に私が作った造語である。

*2:したがって、上に書いた購入時の高さも、実は推測です。

*3:座高がばれますが。

*4:うおー、更新した後ではてなキーワードに教えられました。正しくは「巌窟王」です。はい。Atokユーザーです。