外道

2007年に故川村かおりさんの本を紹介したけど、その部分を再掲載します。

 川村かおりは、貿易会社の駐在員だった日本人の父とロシア人の母の長女として1971年にモスクワで生まれたが、1982年に家族で日本に移住。だが彼女は日本の学校でいじめに会う。

 1983年、中1の2学期、新たな展開はソ連大韓航空機を襲撃したことから始まった。忠告を無視して航路を大きくそれた民間機が撃ち落され、269名が亡くなったが、その中に日本人も含まれていたのだ。社会の教師が授業中にその事件の話を始め、私に「この外道が!」と叫んだのである。そして過去にまで遡り、ソ連がいかに卑劣かを説き始めた。
 家に帰って辞書で外道を引いた。意味がわからなかった。が、この日からソ連バッシングが始まった。『ロッキー』などでも見られるように、アメリカ映画の中のロシア人は常に悪役で冷酷で残忍、そして必ずアメリカが正義であることが打ち出されていて、それは同時に当時の世の中の風潮でもあった。ロシア人がなぜ悪いのか、どう悪いのか、そんな説明はなく、とにかく悪なのだ。
 ソ連へ帰れ、人殺し、近づいたら殺されるぞ、など周囲から聞こえてくる罵詈雑言は、ハーフで生まれたことを嘆き、ロシア人である母を恨み、ロシア人と結婚した父を許せなくなるには、十分な理由で、私は八つ当たりでひどいことを母に言った。まわりの日本人が私に言うのと同じ文句を母に言うことで、自分が日本人であることを感じたかった。ロシア人ではないということを感じたかった。本当に青臭い馬鹿な子である。
 母は泣いた。遠い故郷を離れ、家族も友人もいない母に、唯一の拠りどころである私が「ソ連に帰れ」と言ったのだから。
(p.35-6.)

ヘルタースケルター (宝島社文庫)

ヘルタースケルター (宝島社文庫)

http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20070313/1173810219