外来語の略語は、「モンハン=モン(スター)・ハン(ター)」「カラコン=カラ(ー)・コン(タクトレンズ)」「ガンプラ=ガン(ダム)・プラ(モデル)」など、各単語の最初の二文字をつなげる、という作り方が標準だと思っていたが、様々な例外がある。
外来語の略語として最初に思いつくような気がする「パソコン」は、「パ(ー)ソ(ナル)・コン(ピューター)」だから「パーソナル」の1文字目と3文字目を取っている。結構特殊だ。「パー券=パー(ティー)券」もあるのだから、なぜ「パーコン」にならなかったのか。
また「スマホ=スマ(ート)・ホ(ン)」も、なぜ「スマホン」ではないのか謎。「ガラケー=ガラ(パゴス)・ケー(タイ)」は、「ガラケ」ではないのに。ただ、3文字(3拍)の略語もあるといえばある。たとえば「アコギ=アコ(ースティック)・ギ(ター)」「エレベ=エレ(クトリック)・ベ(ース)」などは、「アコギタ」「エレベー」とは言わない。
楽器関係では「ベーアン=ベー(ス)・アン(プ)」はまだわかるのだが、「ギーアン=ギ(タ)ー・アン(プ)」は「ギタアン」ではないというのも謎。言いにくいからか、ベーアンから派生したからかもしれないが。
などと考えたところで検索したら以下の論文がヒットした。
林慧君「外来語の複合語における略語の語構成」(九州大学国語国文学会「語文研究」97 1-16、2004年)
本稿では、「外来語の複合語」の略語を、その語形成過程の違 いを考慮して、次の如く分類する。
ア 省略語基の複合による略語
例:ロケ+バス→ロケバス
コンビニ+店→コンビニ店
イ 複合語の短縮
1 複合語短縮:複合語の構成単位の一部が省略されるもの
例:アパートマンション→アパマン
ビニール傘→ビニ傘
2 複合語語省略:複合語の構成単位の一方の語が省略されるもの
例:マグカップ→マグ
ツートンカラー→ツートン
なるほど。コンビニの例だと、「ア」が「コンビニ店」、「イ−1」が「ファミリーマート→ファミマ」、「イ−2」が「セブンイレブン→セブン」となる。
そして論文の著者は、この「複合語短縮」においては、「パソ+コン」のような、「2拍+2拍」のパターンが典型的である、と言う。著者はさらにこの短縮のパターンを以下の6種類に分けている。
1 [a( )+b( )]
例:エンスト=「エン(ジン)スト(ップ)」
2 [( )a+( )b]
例:億ション=「(一)億(マン)ション」
3 [a( )+( )b]
例:パソドル=「パソ(コン)(アイ)ドル」
4 [A+b( )]
例:ノーヘル=「ノーヘル(メット)」
5 [A+( )b]
例:ロムドル=「ロム(アイ)ドル」
6 [a( )+B]
例:パトカー=「パト(ロール)カー
さて、上記論文著者の林慧君氏による、複合語短縮において「2拍+2拍」のパターンが多い、という主張であるが、確かにそうだろうと思うものの、最初にあげたように、「スマホ」などの「2拍+1拍」のパターンも、結構ある。そして、これは単なる私のカンでしかないが、「スマホ」「スタバ」「パリピ」「タイパ」「陽キャ」と並べてみると、もしかすると「2拍+1拍」で3拍の略語(複合語短縮)がちょっと流行りなのではないだろうか。若者は4拍だとちょっと野暮ったく感じるのかもしれない。というわけで、上記論文では扱われていない「2拍+1拍」の略語について分析してみたい。
その前に、なぜ外来語の略語(複合語短縮)で「2拍+2拍」のパターンが多いか、ということだが、これはおそらく、2字漢語が「2拍+2拍」のパターンが多いがゆえに、そこに引きずられているのではないか。しかし、2字漢語は他に「2拍+1拍、1拍+2拍、1拍+1拍」もある(逆に言うとそれ以外にない)。それぞれ例示すると
2拍+2拍
闘争(トウソウ)、組合(クミアイ)、活動(カツドウ)、革命(カクメイ)
2拍+1拍
反旗(ハンキ)、幹部(カンブ)、党紀(トウキ)、任務(ニンム)
1拍+2拍
査問(サモン)、指弾(シダン)、市民(シミン)
1拍+1拍
書紀(ショキ)、支部(シブ)、異議(イギ)
など。
漢字二字の略語の場合もそうだ。
2拍+2拍
街宣(ガイセン)=街(頭)宣(伝)、万博(バンパク)=万(国)博(覧会)、原発(ゲンパツ)=原(子力)発(電所)*1
2拍+1拍
労組(ロウソ)=労(働)組(合)*2、安保(アンポ)=安(全)保(障)、外資(ガイシ)=外(国)資(本)、
1拍+2拍
科博(カハク)=科(学)博(物館)
1拍+1拍
科技(カギ)大=科(学)技(術)大
※後ろに「大」がついているがこれしか思いつかない。
では、外来語の「2拍+1拍」の略語について(一部それ以外も入っている)。
1拍が「ア行」
南ア=南ア(フリカ)
※これぐらいしか思いつかなかった。アメリカは、アメ(リカ)横(丁)のように2拍になる。
1拍が「カ行」
トレカ=トレ(ーディング)カ(ード)
コミケ=コミ(ック)(マー)ケ(ット)
レイコ=冷コ(ーヒー)
※コミケは、まずコミック+マーケットで「コミケット」という造語が作られ、そこからさらに(ット)が省略されてできたのであろう。
1拍が「ガ行」
エロゲ=エロゲ(ーム)、サバゲ=サバ(イバル)ゲ(ーム)、ネトゲ=ネ(ッ)トゲ(ーム)等
アコギ=アコ(ースティック)ギ(ター)
※「エロゲー」など4拍の言い方もあるが、なんとなく3拍のほうが今っぽい印象がある。
1拍が「サ行」
ファンサ=ファンサ(ービス)、はてサ=はて(な)サ(ヨク)
セリーグ=セ(ントラル)リーグ
ギョニソ=ぎょに(く)ソ(ーセージ)、ソ連=ソ(ビエト)連(邦)
※「はてサ」は死語か……。ていうかサヨクはカタカナだけど外来語ではなかった。セリーグは1拍+3拍。ソ連は1拍+2拍。テニサー=テニ(ス)サー(クル)などは、テニサではなくテニサーと4拍。ギョニソの「ギョニ」は、「肉」という漢字をぶった切って省略するというめちゃくちゃなやり方。ソ連は、なぜ「ソビ連」にならなかったのかわからないが、ソビ連では語呂が悪いかもしれない。
1拍が「ダ行」
はてダ=はて(な)ダ(イアリー)
ドイデ=ド(イツ)イデ(オロギー)
※どちらも死語か……。ドイデは1拍+2拍。
1拍が「ナ行」
ナリーグ=ナ(ショナル)リーグ
※これぐらいしか思いつかず。1拍+3拍。
1拍が「ハ行」
スマホ=スマ(ート)ホ(ン)、ロイホ=ロイ(ヤル)ホ(スト)、オナホ=オナ(ニー)ホ(ール)
※「ホ」しか思いつかず。下品なものも入ってしまって申し訳ない。しかし、スマホは外来語の略語で最も使われているものだろう。
1拍が「バ行」
スタバ=スタ(ー)バ(ックス)
ソフビ=ソフ(ト)ビ(ニール)
はてブ=はて(な)ブ(ックマーク)
エレベ=エレ(クトリック)ベ(ース)
※はてブは死語。
1拍が「パ行」
タイパ=タイ(ム)パ(フォーマンス)、タコパ=たこ(焼き)パ(ーティー)、ダンパ=ダン(ス)パ(ーティー)等
パリピ=パ(ー)リ(ー)ピ(ープル)、ヘソピ=へそピ(アス)
ナメプ=なめ(た)プ(レイ)
カンペ=カン(ニング)ペ(ーパー)、トレペ=トレ(ーシング)ペ(ーパー)
※ダンパなどは、3拍だけどかなり古くからある略語のようだ。もしかして3拍略語ブームはリバイバルなのかな。少し古い「コスプレ」などは「なめプ」と同じ「プレイ」を使っているのに4拍。やはり3拍流行りか。
1拍が「マ行」
ファミマ=ファミ(リー)マ(ート)、フリマ=フリ(ー)マ(ーケット)、ブクマ=ブ(ッ)クマ(ーク)
ロイミ=ロイ(ヤル)ミ(ルクティー)
写メ=写(真)メ(ール)
ドクモ=読(者)モ(デル)
※「写メ」は外来語の略語では珍しい「1拍+1拍」の語だと思う。私はこれしか思いつかなかった。
1拍が「ヤ行」
思いつかず
1拍が「ラ行」
イラレ=イラ(スト)レ(ーター)、東レ=東(洋)レ(ーヨン)
※イラレはアドビのソフトの場合だけこう略される。
1拍が「ワ行」
※思いつかず。長音がつくと「ワープロ」「ワーホリ」などある。
1拍が「キャ行」
陽キャ=「陽(気な)キャ(ラクター)」
※少し古い「ゆるキャラ」は同じ「キャラクター」が入っているが4拍。やはり3拍流行りか。
1拍が「ギャ行」
バンギャ=バン(ド)ギャ(ル)
一泊が「シャ行」
スクショ=スク(リーン)ショ(ット)
1拍が「ジャ行」
朝ジャ=朝(日)ジャ(ーナル)
ところで、「ハンスト=ハン(ガー)スト(ライキ)」の「ハン」「スト」のように、前後の要素をそれぞれ2拍に切り詰める時は、だいたい元の要素の前から2文字を取り出す形で作られる。しかし、「パソコン」の「パソ=パ(ー)ソ(ナル)」のように、長音を省略した上で2拍取り出す場合もある。この例としては「マケプレ=マ(ー)ケ(ット)プレ(イス)」、「ミニモニ=ミニモ(ー)ニ(ング娘。)」などがある。
また、ネトウヨ=ネ(ッ)トウヨ(ク)、ネトフリ=ネ(ッ)トフリ(ックス)のように、促音を省略する場合もある。そもそも「ネット」自体が、「インターネット」の前半を省略したものだろうけど。「インター」になると「インターナショナル」か、または「インターチェンジ」になってしまう。
その他思いついた促音省略は、「バク転=バ(ッ)ク転」、「完パケ=完(全)パ(ッ)ケ(ージ)」「キメセク=(薬を)キメ(た)セ(ッ)ク(ス)」がある。
「ネット=(インター)ネット」のように、前半を切り捨てる略語というのもいくつかあって、「メット=(ヘル)メット」、「ケット=(ブラン)ケット」、「リーマン=(サラ)リーマン」などがある。比較的少数だと思うのだが、その中で「ネット」だけは非常に普及している。「インター」がすでに使われていたからかもしれない。外来語ではなければ、隠語的なものに、前半切り捨て型がよくある。「サツ=(警)察」、「ダチ=(友)達」などである。
隠語的な略語には変わったものも多い。例えば私は吸わないが、タバコの銘柄略語。
「マイセン=マイ(ルド)セ(ブ)ン」は、「マイセブ」でも「マイセ」でもなくなぜか「マイセン」。「セッタ=セ(ブンス)タ(ー)」こちらは、促音「ッ」を付加して3拍にしている。