ビラ読めば「ビラ反対」と書かれおり

2月24日、江戸川区にある篠崎高校前で、法政大学生がビラを配っていたという理由から、篠崎高校長が警察に通報していました。立川テント村の方がビラを配っていて逮捕された事件は、皆さん記憶に新しいと思いますが、またもや、ビラ配りを警察に通報し、思想の弾圧、表現の自由を奪う事件になっています。
校長が警察に通報した理由とは、
『予備校のビラはいいが、卒業式に関わるものなので自分の責任で警察を呼んだ。』だそうです。
今日の篠崎高校の朝の職員会議で「思想弾圧」だとして、教職員の皆さんが事実究明にあたっているそうです。しかし、外圧のほうが効果的ですので、ご協力の程よろしくお願いします。
みなさん、今すぐ抗議の声を集中してください。携帯からでもできます。メールやFAXをお願いします。(AMLメーリングリスト

 立川の事件は地裁で無罪判決が出ましたが、検察は控訴しました。似たような事件として、去年の12月23日、葛飾区では、日本共産党のビラをマンションで配った男性が逮捕されるという事件もありました。

 警視庁などによると同党の支持者が各戸の新聞受けに「都議会報告」などのビラを配布中、住民の一人が「迷惑だからやめろ」と抗議。
 支持者が「ビラを入れてほしくないなら入れない」と応じたが、住民は携帯電話で警察に連絡、支持者は亀有署員に住居侵入容疑の現行犯で逮捕された。(東京新聞

 東京地検は1月11日、この支持者(57歳の男性の僧侶)を住居侵入罪で起訴したそうです。いずれにせよ、ビラを配っただけで通報されてしまうなんて、嫌な世の中だな、と思います。が、今や、「マンションで政治的ビラを配るなんて迷惑だ」と思う感覚を持つ人の方が多数派かもしれない。
 考えてみれば、「予備校のビラはかまわない」という校長の発言はなかなか興味深い。これはやはり、商業的ビラはいいけど反戦ビラはイヤだ、商業活動はいいけど反戦活動はウザイ、という空気と関係しているでしょう。ここには、「不快な声は聞きたくない=心地いい声しか聞きたくない」という「空気」が関係している。
 しかし、どうでしょう。今回高校前で法政大生が配ったビラの内容はわかりませんが、ひょっとすると「息子が通う高校の前で日本共産党のビラが配られるのはいいけど、ニセ左翼暴力集団のビラが配られるのはイヤだ」という人もいるかもしれない。あるいは、「反戦のビラが配られるのはいいけど、右翼のビラが配られるのは正直言うとイヤだ」という人もいるかもしれない。では、今回高校の前で配られたのが、風俗店のビラだったら?
 松沢呉一が言っていますが*1、「有害」コミック規制反対運動になかなか一般の関心があつまらないことの原因に「エロだから(規制されても)仕方がない」というメディアや一般の空気のようなものがある。ここでも、「エロは不快なもの」という意識が、そもそも「声を聞かない」という反応につながっているわけです。実際、反戦ビラ配布弾圧は反対だけど、有害コミック規制はしかたない、という人もとても多いと思います。しかし、「あれは反戦だから」という空気と、「あれはエロだから」という空気は、「不快な声を聞きたくない=心地よい声だけ聞いていたい」という意味でかなり共通しているように私には思えます。
 が、それだけではなく、事態はもっと「深刻」だと思うのです。そもそも、「抗議の声」といったようなものは、「放っておくと聞いてもらえないような声」だからこそ、しばしば大声で叫ばれる。ところが、そのように「叫ばれた声」というのは、「叫ばれている」というそのこと自体から「政治的・偏向した声」と判断され、結局「聞かなくてもいい」と判断されてしまう。「聞いて下さい」と言えば言うほど聞かれなくなってしまう、という悪循環です。つまり、「不快な声は聞きたくない」という空気があると同時に、「声を上げる」こと自体を「不快」と感じる空気もある。とするとどうすりゃいいんだ、という感じです。
 考えて見れば、今市民に受け容れられる唯一の運動は、市民による「市民運動反対運動」、今いちばん受け取ってもらえるビラは「ビラ配布反対」を訴えるビラなんじゃないか、なんて思ったり。
 「左翼はいいけど右翼はちょっと」「反戦はいいけどエロはちょっと」……ていうじゃなーい?……「共産党もカゲキ派も左翼も右翼も反戦もエロも、ぜんぶウザイ」てなってますから!残念!*2
 それはともかく、こういうのはどうですかね。予備校のビラならかまわないんだから、「政治的なビラ」じゃなくて「予備校のビラ」だってことにしてしまえばいいんじゃないか。そのためには、政治的声を上げたい人自身が、予備校を作ってしまうしかないでしょう。「反代々木系ゼミナール」とか*3。予備校が出しているビラなら何が書いてあっても文句はないでしょう。やっぱり書き出しは全部「すべての受験生のみなさん!」でしょうけど。

*1:たとえばここ

*2:いいかげん波○陽区はやめたい……。

*3:まあもともと予備校は「反代々木系」の人が多い業界ではありますが。

 コメント欄に書いたことなのですが、上で私は通報する「空気」の話をしたわけですが、しかし、仮にそうした「空気」自体が、自然と熟成されたというより、(おおげさにいえば)「謀略」によって「作られた」ものだとするならば、「空気」の話をしちゃうこと自体で、かえって、ありもしない「空気」が「ある」ことになっちゃう面はある。つまり、それこそ別の意味でまんまと「謀略」に引っかかってしまうことになる。その点注意しないとまずいですね。
 最近読んでなかったのですが、久しぶりに鈴木邦男の「今週の主張」http://www.geocities.co.jp/HeartLand-Gaien/2207/2004/shuchou1227.htmlを読んだら、立川反戦ビラ事件のことが書いてある。それによると

それに、住民が不安がって警察の届けて、それで逮捕したのではない。公安が市民運動を狙い撃ちにしたのだ。
 今年6月30日の公判の時に、証人から暴露されたのだが、何と「被害届」は警察があらかじめ作り、そこに「署名」させるだけだったという。「一応中身は読んだが、そこに署名させられた」「届は警察が持ってきた。それに印鑑を押した」と住民は証言した。捜査官の多くは刑事部ではなく、公安部の所属だった。
 ひどいやね。住民が不安になって、被害届を出したのなら、まだ分かる。何も不安を感じてない。あっビラが入ってるわ、という感じだ。それなのに公安が、「被害届」を勝手に作って、「どうです。迷惑を受けたでしょう。不安でしょう。こいつらは過激派ですよ。放火、殺人をやり、アルカイーダとも関係あるんですよ。こんな奴らが敷地内に入ったら不安ですよね。じゃ、ここにハンを押して下さい」と言葉巧みに話して、ハンコ、署名をさせたのだ。
 そういわれたら、「まァ、怖いわね」「不安を感じます」と答えるだろう。警察に対し、「いや、不安はない。公安の方が悪い」なんて、面と向かって言えない。そんなことを言って警察に目をつけられたら大変だと思う。

 ということで、「公判の時に、証人から暴露された」というのですから、憶測よりはずっと確実な話として、やはり「空気」自体が作られる、という側面があると改めて認識するべきなのだろう、と思います。