妄想と現実

米国通の友人H氏から、『ウォールストリート・ジャーナル』2005年8月8日号のインターネット版記事の一部が送られてきた。
 『ウォールストリート・ジャーナル』は「郵政民営化法案は廃案となったが、これは手取りの時期が少し延びたに過ぎない。ほんの少し待てば、われわれは3兆ドルを手に入れることができる」との見方を述べている。
 3兆ドルとは、国民が郵政公社に預けている350兆円のことである。ウォール街は、9月11日の総選挙で小泉首相が勝利し、総選挙後の特別国会で郵政法案を再提出し、成立させると信じているようである。
 H氏によると、これを確実にするため、ウォール街は、多額の広告費を日本に投入し、日本のテレビを動員して、日本国民をマインドコントロールして、小泉首相を大勝利させる方向に動いている。(……)NHK以外の在京の全地上波キー局が小泉自民党の宣伝機関になり、小泉ヨイショ報道に狂奔している。これにより日本国民をして小泉を支持させて、小泉を英雄にし、独裁者にしようと狙っている。独裁者になった小泉が郵政を民営化し、350兆円の郵貯簡保の金をウォール街に流してくれると考えている」とのことだ。

 こうした説を唱えるのは森田実だけではないが、どうも風当たりが強いようだ。ネット上でも、森田実に対する罵倒や嘲笑をしばしば見かけた。「妄想だ」「馬鹿だ」「陰謀論だ」云々。
 上記は未来の事に関する言説である。未来のことについての言説はある意味ですべて「妄想」だと言えなくもない。「明日富士山は噴火しない」という言説だって、もし万一明日富士山が爆発したら、後からすれば「妄想だった」ことになるとも言える。
 ただ、過去の経験から、小泉政権が徹底した従米路線をとり続けてきたことは明白なのだから、上記の話もさほどありそうにないこととは思えない(明日富士山が噴火するよりはありそうだろう)。少なくとも小泉が米国の損になることを進めようとしないことぐらいは予想できそうだ。が、まあいずれにせよ、未来の事柄についての現時点での発言は、そのかぎりで少なくとも「妄想かもしれない」と言いたいなら言えばいいと思う。
 しかし、である。過去の発言、しかも、現時点では事実とは異なっていたことが明らかになっている発言は違う。それはつまり「妄想だった」ことが確定したということではないか?
 そして、小泉は、「イラク大量破壊兵器がある」と言ってイラク戦争を肯定し、イラク戦争は「イラクに安定した民主政権をつくるため、正しい選択だった」と言っている。つまり、小泉氏の発言は、まさしく「妄想だった」ことが今や明かである、ということだ。
 森田実を「妄想家」というのなら、小泉こそ、まぎれもない「妄想家」ではないか?

たとえば、小泉純一郎が嬉々として賛意を表明した米軍のファルージャ侵攻。2004年4月にも2004年11月にも、そこで米軍が行なってきたことは、私たちが自分たちの閉じこもった日常の中では当然と見なしている規範を仮にそこに適用することができるならば、疑いようもない無差別大量殺人であり、それはまごうかたなき現実としてある。
あるいはトルコで迫害され日本に難民資格を求めてやってきたクルド人家族の難民資格を認めず、自らが批准している難民条約に違反してもトルコに強制送還しようとする政府。350兆円にのぼる郵便貯金という市民の資産を私有化し都合のよいところに使い回そうとする政府と、それを推進するために大規模に画策するグローバル「ビジネス」。
年間3万5000人近い自殺者と増加するホームレス。
(……)
ファルージャで米軍が犯し、イラク各地で今も続けている無差別大量殺人を認識し、それに反対すること。大量殺人を薄ら笑いとともに支持してきた小泉純一郎の政権に反対票を投ずること。反省的認識に立ち止まるのではなく、物理的な行動の一歩を、それがどんな小さなことであれ踏み出せば、奪われた術を取り戻すことが可能になるだろう。
参考までに、イラクアフガニスタンでの無差別殺人についてジョージ・W・ブッシュ米国大統領や小泉純一郎首相が述べた言葉をいくつか挙げておく。 >
われわれはイラクを攻撃しているのではない。解放しているのだ(ジョージ・W・ブッシュ イラク侵略から間もなく)
自由は、世界中のあらゆる人々に与えられた神からの贈り物である。地球上で最も強大な国として、私たちアメリカ人は、その自由を広める任務を担っている(ジョージ・W・ブッシュ 2004年4月、ファルージャ虐殺を進めていたさなか)
いいことですね(小泉純一郎首相 2003年4月9日、米英が国連を排除してイラクを長期占領し、暫定政権を連合軍の援助のもとで作ると発表した際)

サルトルは、ベトナム民衆法廷の際、次のように述べていた。
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