「平和国家 日本」という妄想

憲法9条にノーベル賞を」運動に賛同する議員に改憲主義者がいる、という話についての↓の記事

付け加えるならば、日本人の「平和国家 日本」という妄想が右も左も関係なく成立しうることの証左でもあるんではないでしょうか。
安倍さんたちがのどから手が出るほど欲しいのも「平和国家 日本」ていうイメージですよね。だから「積極的平和主義」とかぬかしてるわけで。賞をもらえたとしたら安倍さんへのナイスアシストを護憲派が主導するという悪夢になることでしょう。

http://d.hatena.ne.jp/EoH-GS/20140531/1401535751

これを読んで、何年も前に下書きまで書いて放置してて、その下書きもどこかにいってしまったネタを思い出したので、書き直すことにしました(たいしたことではないけど)。
コンビニに、新刊のマンガや小説が数冊並んでいたりしますが、4・5年以上前、そこに『皇国の守護者』というタイトルの本(マンガ)が並んでいて、びっくりしたことがあります。なんだこれ、と思ったら、いわゆる「架空戦記」というものであるらしい。それにしても、フィクションとはいえ、このような禍々しい(ウヨウヨしい)タイトルの本が、普通にコンビニとかに置かれているほどメジャーな扱いを受けるんだな、ということにちょっとびっくりしました。といっても、この本やこうした「架空戦記」の内容がどういったものなのかはよく知りません。もしかすると、作者や読者は、「自分は右翼でも左翼でもない」などと言っているのかもしれませんが、そういうこととは関係なく、なんというか、こんなセンスのタイトルの本がフツーに受け入れられてしまう空気というのが、安倍晋三のような極右政治家が首相になり、百田さんのような人がベストセラー作家としてもてはやされる*1ことと共通するまさにニホン的なものだな、と思ったということです。というわけで、『皇国の守護者』というこの本の詳しい内容については、申し訳ありませんがあまり関心がないのですが、この物語における「皇国」の設定については、興味をひかれました。

人と龍が共存する世界で、小さいながらも貿易によって繁栄していた<皇国>と、その貿易赤字を解消するために海の彼方から侵略してきた<帝国>との戦争、それをきっかけとして激化する<皇国>内部の権力闘争を描く。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%87%E5%9B%BD%E3%81%AE%E5%AE%88%E8%AD%B7%E8%80%85

架空戦記ですので、「皇国」というのもまあ一応は架空の国ということなのでしょうが、どう考えても日本がモデルになっているわけですね。で、「小さいながらも貿易によって繁栄していた」ですか……まさにid:EoH-GSさんの言う「日本人の「平和国家 日本」という妄想」そのものですよね。架空戦記の愛好者たちはおそらく軍事が大好きな人がたぶん多いのだと思うのですが、しかし、この「設定」には、「日本は軍事国家ではなく「貿易によって繁栄している小国」だ」そして「侵略した/する国ではなく侵略された/されそうな国なんだ」という日本人の歪んだ自意識がわかりやすく漏れだしているのではないでしょうか。もちろん、実際の日本は「貿易によって繁栄していた小国」であるどころか、まぎれもない「軍事大国」であったし、今もそうだし、また戦後日本の「繁栄」なるものの内実も、「貿易によって」というようなきれいごとであったわけではないことは、例えばその繁栄が朝鮮戦争時の特需景気によってもたらされたという事実一つとっても明らかでしょう。まあとにかく、日本人というのは、明治以来、尊大な「大国」意識とアジアに対する蔑視感情をとめどなく増大し続け、実際に軍事大国となって加害を繰り返しておきながら、一方で、自分の汚れた手(軍事)からひたすら目をそらし*2、「大国」のイメージを「科学技術」だの「経済」だので塗りかため、さらには、自分たちは「反日」の軍事大国からいじめられ、脅かされている「小国」なんだ、などという被害者意識をはちきれんばかりにふくらませている、というわけですね*3。「平和な小国日本の平和憲法ノーベル賞をもらって、やっぱり日本は世界に認められた大国だ!」というわけですか。なんとも都合のいい話ですね。

*1:そういえば最近「『永遠の0』は反戦小説だ」と百田さんを擁護する人をネット上で見かけました。今回書いたことに関連する話だと思います。

*2:この隠蔽が、軍事基地の70パーセント以上を沖縄に押し付けることによって行われていることは言うまでもありません。

*3:また一方で、この矛盾は、中国や朝鮮の軍事的脅威を煽る一方で「あの国の軍隊は自衛隊に何分で制圧されてしまうようなお粗末なものだ」などと嘲笑する、という逆の形でもあらわれています。