ディス・イズ・ボサノバ 2

前回書いた「ディス・イズ・ボサノバ」http://d.hatena.ne.jp/sarutora/20070826/p1 のレビュー記事(朝日に載っていたそうです)について、yskszkさんが書いていらっしゃいます。

この記事によればボサノバが囁くような歌唱法を多用したのは、都市部に住む中産階級の若者に人気があったからだとか。彼らが住んでいるのはだいたい壁の薄い安アパートで、夜中にギターを弾きながら大声で歌っていると、たちまちとなりの住民から文句を言われる。

http://d.hatena.ne.jp/yskszk/20070908#p1

確かに、そういう話が映画でも出てきました。
それに対して、gotannda6さんはこう言ってます。

でも、ボサ・ノヴァがささやくような歌い方をする理由を端的に言えば、ただ単にジョアン・ジルベルトが当時流行していたチェット・ベイカーの唱法をパクったから。

http://d.hatena.ne.jp/gotanda6/20070909

この話も聞いたことあります。映画でも「チェット・ベイカーの影響があった」という話は出てきたと思います。
で、「となりから苦情がくるので声が小さくなった」というのは、メネスカルかカルロス・リラが、自分たちが練習している時の話、として語っていたように思います。
「部屋で練習するとき、最初はこのぐらいの声で歌ってたんだよ(歌う) そうすると苦情が来る。で次はこのくらいの声の大きさになった(少し小さな声で歌う) ところがまだ苦情が来る。で、とうとうこんな感じになったのさ(もっと小さな声で歌う)」
こう言った後、カメラに向かってニヤっと笑う、というようなシーンがあったと思います。
このニヤっという笑いからもわかるように、この話、まったくウソではないかもしれないけど、ちょっと作ってるんじゃないか、という感じでした。で、メネスカルたちの話は、かなりそういう「ホントかよ」ていうのが多かったですね。そこが面白いんですけど。たとえば、メネスカルの名曲「小船」というのは、仲間たちとボートにのって海で舟遊びをしていて、遭難しかけたときにその場でできた、という話とか。エンジンがとまって漂流し、なるようになるさ、という感じでみんなで歌を歌っていたときにできた、というんですけど、ホントかなあ。「この曲の最初の所は、かけなおしてすぐ止まってしまうエンジンの音をあらわしているんだ」とかいいながらメネスカルが歌ってみせるんだけど、なんかあやしいんだよな(笑)。
ジャズマンの思い出話もウソくさい話はいくらでもありますよね。一番有名なのは、ディジー・ガレスピーのトランペットのカップが上を向いているのはなぜか、という話。ある朝間違ってトランペットを踏んづけて曲がってしまい、しかたなくそのまま吹いたら意外といい音がするので以後特注であの形のトランペットを作るようになった、という話。明らかにウソです。なんか、締め切りが迫っているときに藤子不二雄先生が娘の起き上がりこぼしにつまづいて、その瞬間ドラえもんのアイデアができた、ていう話みたいですけど(藤子先生の話はホントなのかな)。
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そういえば、隣の苦情、という話では、ジャズ・ギタリストのウェス・モンゴメリーが親指奏法を編み出したのも、ピックを使うと大きい音が出て隣の部屋から苦情が出るんで、しかたなくピックを使わず親指で弾いていたらできた、という話がありますね。これもホントかどうかわかりませんが。
しかし、なんかこの話よく似ているので、ひょっとすると、メネスカルはこのウェスの話をパクって自分たちの話にしたのかも。
追記:
ちょっと調べたらウェスの親指奏法誕生秘話は、やっぱり怪しいという話があるようです。
http://www.ne.jp/asahi/wes.fan/club/right/wemon/1wemon.htm
ここによると、ウェスは独学でギターを習得したので、もともと自然と親指で弾いていたのではないかという話。ピックで弾いていたのは2ヶ月ぐらいしかない、とウェス自身が言っているそうです。
で、後半には、ウェスのもう一つの特徴であるオクターブ奏法の誕生秘話が書いてあります。

ウェスの親指奏法が、その後オクターヴ奏法につながった話で定説的には「さらにオクターヴ
れた音を同時に弾くことでより一層静かになった。」と今まで簡単に書かれていたが、この事実関
係も98年12月に出版されたCDジャーナルで、小川隆夫氏がフレディ・ハバードから聞いた話で明
らかにしている。
要約すると「1950年代後半、ウェスとハバードはジョニー・ザ・クライング・トンプソンのブルー
ズ・バンドに雇われたがウェスはジョニーのサイド・ギターにまわりユニゾンやハーモニーをつけ
ていた。
やがて感のいいウェスは彼のフレーズを全て覚えてしまい、次に上下どちらかのオクターヴ差の音
をユニゾンで演るようになった。
ある日、演奏中にジョニーが弦を切るアクシデントがあり、ウェスはとっさに彼の分まで、つまり
オクターヴの上下音を同時に弾いた。」といことからオクターヴ奏法の発想が生まれたと書かれて
ある。本当に凄い話ですよね。

うーん、これも、ホントかなあ……特に、ソースがフレディ・ハバードというところが、怪しさを倍増しています(笑)*1。しかし、ジャズマンは、そういう、誕生秘話っぽいネタが好きな人が多そうですねー。

*1:あの人はいかにもそういうホラを吹きそうなイメージがあるんですよね。