『日本の論点』がすごいことになっていた

2004年に、旧猿虎日記でもとりあげたのですがhttp://www.geocities.co.jp/CollegeLife/6142/0401.html#22文藝春秋が出している『日本の論点』という本があります。この本は、毎年出ている、自称「文藝春秋が誇る日本で唯一の年刊論争誌」なのですが、リンク先でも書いたように、前からなんとも気持ちの悪い本でした。
この本は、学校のディベートの授業か何かのテーマ選び、参考資料などとして使われたりしているようですが、どういう本かというと、さまざまな「論点」について、対立する複数の立場の論者による論文(たまに1本しか載っていない場合もある)を集めている、というものです(後述するように、正確には「でした」)。対立する立場、っていうのは、だいたい「右」対「左」みたいになっているのですが、まあ文藝春秋が明らかに「右」なわけなので、「左」の論文は、ぶっちゃけ「かませ犬」的な役割なのでしょう。実際、各章の章末についている「議論に勝つ常識」という編集部による「解説」(このネーミングがすごいのですが)が、右に誘導しようとする意図が見え隠れしているものも多いのですが、まあいいでしょう。
で、「右」の「論者」の中には、(今となっては「あの人は今」ですが)安倍晋三氏のような人も入っているのですが……論文を読まずに言うのもなんですが、彼のような人にとってみれば、「議論に勝つ」ことよりも、そもそも「論争」の一端を担えている、という印象を「ギャラリー」に示すことができれば、成功、だったのではないかなあ、と思われます。まあ、それもいいのです。
んで、こちらhttp://www.bitway.ne.jp/bunshun/ronten/sample/year/lst_y04.htmlにある2004年度版目次から、「右対左」ぽいものを選んでみたのがこちらです。

●論 点 専守防衛の範囲はどこまでか 2004年版
石破 茂(衆議院議員防衛庁長官)新時代の防衛の論理――専守防衛の敵基地攻撃と先制攻撃は決定的に違う
前田哲男東京国際大学教授)敵基地先制攻撃論は専守防衛の歴史的背景を考慮しない暴論である

●論 点 海外派兵を積極的にすべきか 2004年版
村田晃嗣同志社大学法学部助教授)安全保障基本法が無理なら、せめて自衛隊海外派遣の恒久法を制定せよ
水島朝穂早稲田大学法学部教授)イラク特措法はすでに違憲――海外派兵のための恒久法など論外である

●論 点 国家とは何か 2004年版
安倍晋三衆議院議員自民党幹事長)国家は自由と人権を担保し、帰属する国民の誇りによって形づくられる
姜 尚中(東京大学社会情報研究所教授)自立を唱えつつ米国に従属する――日本人の国家意識に潜む大いなる矛盾

●論 点 米経済は上向くか下降するか 2004年版
宮尾尊弘(国際大学グローコム教授)株価と住宅市場の活況を見れば、米国経済の回復が順調なことがわかる
金子 勝(慶應義塾大学経済学部教授)景気回復の兆しのウソ。住宅バブルの崩壊がやがて米経済を失速させる

●論 点 治安をいかに回復するか 2004年版
佐々淳行(評論家)かつてニューヨークが見習った交番の充実と警察官大増員が急務
斎藤貴男(フリージャーナリスト)失業や差別が減ってこそ街の安全は取り戻せる。警察力の強化は逆効果

「左」っていってもこれか、みたいに思う人もいるかもしれませんが、まあそれはおいといて。
で、この間、最新の2009年版というのが本屋にならんでいたので、なにげなく見てみたら、ちょっとびっくりしました。
こちらhttp://www.bunshun.co.jp/book_db/5/03/08/9784165030805.shtmlの「立ち読み」というところで見える目次から一部書き出したのがこれです。

金融危機の行き着く先は
堺屋太一
●官僚支配をどう打ち破るか
渡辺喜美
●なぜ国際競争力が低下したか
竹中平蔵
●ロシアにどう向き合うか
佐藤優
●韓国との付き合い方とは
呉善花
●アフリカ支援をどうすべきか
古森義久
●日本政治はどう変わるか
田原総一朗
西部邁
●なぜ結婚しない人が増えたか
内田樹

えーとですね、そもそも、「論争誌」とめいうっていたはずなのに、ほとんどの「論点」について、論文が一本しか載っていないのです。しかも、それがほとんど右っぽい人、というか、左じゃない人、というのが、ご愛嬌です。
日本の論点」ていってこれですか…。ぶっちゃけすぎじゃないでしょうか。ていうか、もう「かませ犬」を準備するのもめんどくさくなったということでしょうか。
さて、2004年度版では、安倍晋三氏と対決する「左」の人として登場していた姜尚中氏、2009年度版にも書いてはいるのですが…。

●社会の閉塞感は何が原因か
姜 尚中「悩む力」を信じて悩み抜けば、自分の新しい価値が必ず見えてくる

……こういってはなんですが、あの、これでいいのでしょうか……。