ハーバード微温教室・これからも「正義」のウソをつこう

facebookでとても面白いイラストが紹介されていました。これです。

左は「平等equality」で、右が「正義justice」です。
左の「平等」は、つまりこういうことです。「みんなに平等に一個ずつの箱じゃないか」というわけです。しかし、そんな「平等」が、ニセものの「平等」であることは明らかです。一方、右側の「正義」は、三人の箱の数が違います。そういう意味で一見「不平等」にも見えるかもしれませんが、しかしむしろこちらのほうがほんとうの「平等」です。平等とは、どの子もみんな試合を見る権利が「平等にある」ということだからです。箱の平等は、そもそもこの子たちが何を目的としているのか、とか、この子たちの権利とは何か、という根本的なことからすると、まったくどうでもいいものです。むしろここでの「箱の平等」とは、「権利の不平等」を隠蔽するために使われています。サルトルに言わせると、これは、ニセの普遍性に基づいた「ヒューマニズム」という名のブルジョワイデオロギーです。

一言でいえば、人は【ニセの】普遍性でもってわれわれの社会の現実─少数の人間が大多数の人間を搾取しているという現実─を覆い隠しているのです。PI33

https://twitter.com/SartrePolitique/status/306217489224851456

人は知識人に子ども時代から、虚偽のイデオロギーを教えています。ヒューマニズムという言葉は労働者階級の搾取を覆い隠すためのものですし、平等を唱えながら、実は帝国主義新植民地主義・人種差別論・女性の社会的地位の低さ等々をまかり通しています。PI32

https://twitter.com/SartrePolitique/status/305734227520016384

「ニセの平等」によって本当の平等を覆い隠すような言説は、世の中にあふれています。「俺たちは必死にはたらいているのに、あいつらは税金から生活保護をもらって働かずに遊んでいる、不公平だ」とか、「女性差別なんて今はない。レディースデイとか女性専用車両とか、女性のほうが優遇されている。男性差別だ!」とか。
上のイラストは、そうした「ニセの平等」の欺瞞性をわかりやすく示していてとても面白いです。
……しかし、ちょっと気になる点もあるのです。
右側のイラストの「正義」の絵を、「思いやり」とか「やさしさ」などと解釈する人もいると思います。つまり、一番左の子は、背が高いから、箱がなくても試合が見られる。だから、自分の箱を、一番右の子にゆずって「あげた」。そのやさしさがすばらしい、とか。右の子は、左の子に「ありがとう」とかなんとか言うのかもしれません。
ところで、そもそもこの三人の子たちはずいぶん体格が違いますよね。もちろん、箱の数の分配とは違って、それは「生まれつき」であり「自然」なことだ、と言われるかもしれません。しかし、本当にそうでしょうか。例えば日本でも、戦後の貧しい時代と、高度成長期以後では、子どもの体格や平均身長はぜんぜん違うそうです。とするなら、やはり経済格差と、それによる栄養摂取量の違いが子どもの平均身長と相関しているということも十分考えられるのではないでしょうか*1
というわけで、そうしたことをはっきりさせるために、左の「平等」の絵を少し書き直してみました。それがこれです。


やはり同じように、箱の数が「平等」になっていますが、一番右の子だけが試合を見ることが出来ません。なぜ他の2人は見ることが出来るのでしょうか。彼らがはいている立派な靴は、実はシークレット・ブーツです。しかも、これらの靴を作る工場では、一番右の子が、低賃金長時間労働をしているのです。
こうしてみると、最初のイラストのように、一番左の子が、箱を「ゆずってあげる」というのは、変な話ではないでしょうか。それに右の子が「感謝」する、というのはなんともおかしいです。
では、本当の意味の正義、とはなんでしょうか。
まず考えられるのは、こんなイメージでしょうか。


お金持ちが、自分だけが使うためのシークレットブーツを使うのをやめよう、ということです。シークレットブーツを作る工場では、みんなが使える箱を作ります。そして、みんなが二個ずつ使えるように箱を増やすのです。
これが本当の意味の平等ではないでしょうか。




…しかし、さらにもう一つの考え方もあると思うのです。それがこれです。


どうでしょうか。不当に奪ったものは、返す、というのが「正義」ではないでしょうか?だったら、いままでずっと右の子をふみつけて不当にいい思いをしてきた左の子たちは、不当に得た利益を右の子に返すべきでしょう。
そして、この場面にふさわしい言葉は、「ありがとう」ではなく「ごめんなさい」です。
右の子が「ありがとう」と言うのではなく、左の二人の子が「ごめんなさい」と言うのです。
左の子たちがかわいそうですって?でも、いままでずーっと試合をたのしんできたのです。少しぐらいがまんしたっていいじゃないですか。右の子がずっとそうだったように。
…ところで、このイラストの子どもたちが全員「男の子」にしか見えないのはかなり気になるところです。女の子はどこにいるのでしょうか。球場ににつれて来てもらったのでしょうか?「だってあの子たちは、野球に興味がないんだから。差別じゃないよ」……そうですか?

*1:OECDの報告を解説したこのページによると、韓国は、一人当たり摂取カロリーは朝鮮の1.5倍以上ありますが、平均身長は4〜6センチの差があります。http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/2190.html