2014年のカメルーン人死亡事件(詳細については→異常なし - 猿虎日記)について国賠訴訟の地裁判決が出ました。それについての信濃毎日新聞の社説です。重要な点を指摘しています。〈社説〉入管収容死判決 制度を根幹から見直せ|信濃毎日新聞デジタル 信州・長野県のニュースサイト
内部調査の報告書は、医療態勢の不備を指摘したが、問題の核心はそこにあるのではない。在留資格がない外国人をこの国から排除すべき存在と見なし、原則全て収容する政策自体が、外部の目が届かない施設で人権侵害が横行する実態に結びついている。問題の核心が医療体制の不備ではないのはそのとおりです。だが問題は「原則全て収容する政策」(全件収容主義)*1というより、入管の送還一本やり方針なのです。入管が言う「送還忌避者」とは、実態は、帰国できない事情を抱えた非正規滞在外国人。入管は「送還忌避者」を減らしたい、そしてその方法として帰国させて減らす方法に固執しています。そのため仮放免や長期収容で痛めつけ拷問して帰国する気にさせているのです。しかしそんなことより、帰国できない事情をかかえた非正規滞在外国人に在留資格を出せば(在留を正規化すれば)「送還忌避者」は減ります。むしろそれしか方法はないのです。入管の悪あがきであと何人死ぬのでしょうか?
入管の人権侵害の「体質」とよく言われます。それはそのとおりですし、この「体質」を変えさせなければいけない、というのもそのとおりなのですが、実際は、入管は「人権侵害」(様々な酷い行い)をいわば「使って」ある目的を達成しようとしているわけです。その目的とは、「(入管が言うところの)送還忌避者を帰国させること」「帰国させること(送還)によって送還忌避者を減らすこと」なのです。そういう意味では、人権侵害そのものを目的として人権侵害しているというのとは少し違うわけです(例えばいじめるのが好きだからいじめる、というような)。もちろん、「外国人いじめは楽しい」などという意識の入管職員がいるのも事実です。仮放免者の会(PRAJ): 「外国人をイジメるのが楽しい」(入管職員CH115の発言) ただ、そうした人権意識の欠如した職員をいわば利用して、自分は手を汚さずに「目的」を果たそうとしている入管の上層部こそが問題です。
サルトルは「植民地主義は一つの体制である」という文章でこう言っています。
新植民地主義者は、植民者に良いのと悪いのといると考える。植民地の状況が悪くなったのは、悪い植民者の罪だという。(……)良い植民者がおり、その他に性悪な植民者がいるというようなことは真実ではない。植民者がいる。それだけのことだ。(サルトル「植民地主義は一つの体制である」人文書院『植民地の問題』33頁 http://d.hatena.ne.jp/sarutora/touch/20070922/1190428681
https://twitter.com/SartrePolitique/status/1002843722696912896
入管問題も少し似ています。「良い入管職員と悪い入管職員がいる」と考え、悪い入管職員を減らして良い入管職員を増やせばいい、ということではないのです。入管問題も「一つの体制」なのであり、今問題になっているのは、まさしく入管の「送還一本やり方針」の体制なのです。
もちろん、入管が「送還一本やり方針」に固執すること自体が、入管組織そのものの「人権侵害体質」を現しているとも言えるのですが、個々の人権侵害をただちにやめさせると同時に、そうした個々の人権侵害を生み出している人権侵害的方針をやめさせることが重要だということです。 以下は「入管の民族差別・人権侵害と闘う全国市民連合」https://www.ntsiminrengo.org/の『なぜ入管で人が死ぬのか〜入管が作り出す「送還忌避者問題」の解決に向けて〜』https://www.ntsiminrengo.org/_files/ugd/fe6c0f_ca49684949b241a98830da69dee21c85.pdf(リンクからPDFで読める資料です)からの抜粋です。タイトルにあるように、入管が言う「送還忌避者問題」は、入管自身が作り出している問題なのです。
入管が退去強制処分(退去強制令書発付処分)を下した外国人のうち、割合にすれば数パーセントとわずかですが、難民や日本に家族がいるなど様々な事情で帰国を拒否する人たちが一定数います。こうした人たちを、入管があくまでも退去強制(送還)によって減らしていこうとするならば、その方法は2つあります。
①長期収容を回避し仮放免するが、長期間、仮放免状態で生殺しにし3、あきらめさせて帰国させる。
②無期限収容権を用いて仮放免しない(長期収容)、再収容する、等々によって「こんなところに収容され続けることにはたえられない」、と在留の意志をくじいて帰国に追い込む。
どちらのやり方も日本在留を認めず、帰国を拒否する者すべてを送還しようとする送還一本やりの方針と言えますが、②を私たちは、入管の収容権濫用による強硬方針と呼んでいます。
あとで述べるように、ウィシュマさん事件の背景には、①から②の強硬方針への転換が、法務省入管局長の 2015 年通達を皮切りに 2016 年通知・指示をもって、各入管局・各センターで徹底化された事実があります。 (3頁)
こうして 2009 年から長期収容と再収容でいわば「送還忌避者」を国外に追い出そう、在特基準も厳しくしてもっぱら送還によって「送還忌避者」を減らそうという、「送還一本やり」と呼ぶべき方針が徹底されます。 (16頁)
(……)非正規滞在外国人全体のうち数%、帰国できない深刻な事情をかかえた人がいます。この「送還忌避者」と入管の呼ぶ人たちを、もっぱら送還によって減らそうという方針の破綻があきらかになったのが、2010 年です。以後も、入管はこの送還一本やり方針を一貫して維持して現在にいたります。 (22頁)
(……)送還一本やり方針への固執が、きわめて厳しい在特基準と、これまたきわめて消極的な難民認定にあらわれているとみるべきでしょう。しかし、この方針のもとでは入管のねらいどおりに「送還忌避者」を減らせないということは、すでに明らかです。在留を正規化していく方向での解決が喫緊に必要です。(23頁)
*1:もちろん、それも入管問題の核心の一つではありますが。