異常なし

 8年前の今日、2014年3月30日、東日本入国管理センター(牛久)でカメルーン人男性が死亡しました。昨日書いたように、前日の3月29日にも、同じ東日本入国管理センターでイラン人男性が死亡しています。二日連続で死者が出るという異常事態でした。しかし、これまで書いてきたことからもわかるように、入管では、異常事態が常態化しているのです。
 この事件については、国賠訴訟が提起されていますが、先日、3月18日に結審しています。判決期日は未定とのことです。この事件については、以前紹介したCALL4(公共訴訟についての情報・物語を発信し、寄付などを通じて訴訟に関われる場を提供するサイト)で、詳しい情報を知ることができます。
https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000041
また同サイトでは、弁護団団長の児玉晃一弁護士がこの事件について詳しく語っています。
https://www.call4.jp/column/?p=417
https://www.call4.jp/story/?p=33
 この男性(Wさん、当時43歳)は、2013年10月に成田空港に到着し、そのまま入管に収容されています。11月には入管の中での診療で糖尿病を患っていることが判明しています。年が明けてから体調が悪化し、2月には胸痛、3月には両足の痛みを訴え、3月16日診療を求める申出書が提出されています(被収容者が診療を受けるときには申し出書を出さなくてはならず出しても長期間待たされることが常態化しています)。同室に収容されていた被収容者たちもWさんを心配して早く診察を受けさせてくれと職員に懇願していたようです。
 3月27日午前、Wさんは入管職員に対して「気分が悪くて立つことができない」と訴えました。このときWさんの容態を心配した被収容者十数名が「Wさんを早く医者に診せろ」と言って、ホールに留まって帰室を拒否したそうです(入管の被収容者は短時間の「フリータイム」以外は居室を出ることを許されていません)。正午近くになって、Wさんは別室(個室)に移されました。このときWさんはすでに自力で歩くことができない状態でした。帰室を拒否していた仲間の被収容者たちはこのとき帰室させらたそうです。そして、個室では、監視カメラによるWさんの「動静監視」がはじまりました。この時撮影された監視カメラの映像が、裁判の過程で開示されました。それによると、3月29日夜19時ごろからWさんは呻き声を上げ始め、「I'm dying!I'm dying!」と叫ぶ様子、ベッドから落ちて床を転げ回りながら苦しむ様子が映像に記録されていました。しかしこの状態を「監視」していたはずの入管の記録(動静日誌)には「異常なし」と書かれていたのです。こちら(児玉弁護士のnote)https://note.com/koichi_kodama/n/n9e5b7aef71a5 に現物のコピーが掲載されていますが、異常の有無欄に「有」とあるのはたった1箇所で、声については言及ありません。児玉弁護士によると、この日誌を書いていたのは入管が委託業務している警備会社のガードマンであり、国家公務員である入管職員は監視ビデオを観ていなかったのではないか、ということです。入管に面会に行くと、収容に関わる実に多くの現場業務を民間のガードマンたちが行っていることが分かります。彼らの労働条件は公務員の職員に比べるとはるかに劣っているはずです。もちろんだからこの対応が仕方なかったということではありませんが、構造的な問題があるということです。児玉弁護士のnoteには入管の内部調査の最終報告書も掲載されていますが、そこには「I'm dying!」が一言も書かれていません。児玉弁護士がおっしゃるように「これで入管内部の調査を信じろと言われても、無理」です。また、昨日書いたように、牛久入管では、3月28日夜イラン人男性が倒れ、29日3時ごろ病院で死亡が確認されています。苦しんでいるWさんの動静日誌に「異常なし」と書かれていた29日夜というのは、それからわずか数時間しかたっていないのです。
 翌30日未明には「0:35 床をズボン1枚で転げ回っている」「2:30 床にハーフパンツ1枚で横向きになっている」等と動静日記に書かれていますが(異常の有無欄は「無し」になっています)それでも救急車が呼ばれることはなく、午前3時ころからほとんど動かない状態になったそうです。午前7時2分に入室した職員が心肺停止状態にあるのに気付き、ようやく救急車が呼ばれますが、午前8時7分病院で死亡が確認されました。このとき血糖値は正常な基準の6~9倍にまではね上がっていたとのことです。
 国賠訴訟で、遺族は「男性の容態が悪化した後にも、施設の職員は医師に報告したり救急搬送をしたりせず、注意義務を怠った」と主張したのですが、入管側は、「職員はカメラを通じて動静を確認し、翌朝には救急搬送して『適切な措置をとった』ため、注意義務に違反していない」と反論している、とのことです。誰が見ても「異常しかない」状態を「異常なし」と記録し放置していたこと、それを「適切な措置」だったと主張すること…何もかもが「異常」としか言えません。何か奇妙な世界に迷い込んだような感覚に襲われますが、これが「日本」なのです。
 この事件が2014年の3月30日。そしてこの事件からわずか8ヶ月後の2014年11月には、スリランカ人が東京入管(品川)で医療放置によっって死亡、その2年4ヶ月後の2017年3月には、再び東日本入管センターで、先日書いたように「痛い痛い」と叫ぶベトナム人が1週間も放置されくも膜下出血で死亡、その1年後の2018年4月には東日本センターでインド人が自殺、その1年2ヶ月後の2019年6月には大村入管でナイジェリア人が餓死、その1年4ヶ月後の2020年10月に名古屋入管でインドネシア人が死亡、その5ヶ月後に、名古屋入管でウィシュマさんが死亡するのです。……繰り返しますが、これが「日本」です。