「人が死んでるんですよ」「それで?」

一日過ぎましたが、4年前の昨日、2018年4月13日、東日本入国管理センター(牛久)でインド人のディパク・クマルさん(当時32歳)が自殺しました。この年は、5月中旬に40代の日系ブラジル人、30代のカメルーン人、20代のクルドトルコ人が相次いで自殺未遂をしています。

(自殺したクマルさんは)極貧家庭の5人きょうだいの末っ子。家族らによると、インドでは靴職人として働いたが、月収は家族7人で計7千~8千ルピー(1万2千円程度)。同州の1人あたりの平均月収すら下回る。家計を助けるため金融会社でも働いたところ、借金を肩代わりする羽目になった。「殺す」と脅され、身を守るために2017年4月、「安全」と聞いた日本へやってきた。

 だが、ビザは短期滞在しか認められない「乗り継ぎ」名目。不法滞在を理由に17年7月、東京入管に収容された。「インドに戻れば殺される」と、帰国は拒否。難民認定を申請したが、結果は不認定。センターの外に出られる仮放免の申請も認められなかった。

 命を絶ったのは、仮放免不許可を知った翌日。収容者仲間は「絶望した」と推し量り、インドに住む兄のサンジブさん(35)は「弟は重罪を犯したわけではないのになぜ、死に追い込まれたのか」と悔しがる。(……)

 難民とは別に、家族状況や素行などを考慮し、法相が裁量で決める「在留特別許可」もある。外国人問題に詳しい指宿昭一弁護士は、長期収容者の状況を精査すれば、この対象になる人が多い可能性があると指摘する。ただ、ここ数年は日本人の配偶者や子どもがいても、許可が出ないケースが相次いでいるという。

 法務省の担当者は「在留特別許可はガイドラインにのっとっており、厳しくも甘くもしていない」と話すが、17年に許可を得たのは1255人で、12年の2割程度。現在、在留資格のない約50人を担当しているという指宿弁護士は「多くが従前なら認められていたが、全く許可が出なくなっている。異常な事態だ」と語った。

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 ところが、クマルさんが亡くなったあとも、入管は何事もなかったかのように通常業務を続けていたということです。

 東日本入管センターの被収容者たちは、15日ごろから、クマルさんを追悼できるように花や写真を置くこと、また職員たちがクマルさんの死をいたむ意思を示すことを職員らに求め、それによって、ささやかな追悼の場がやっと設けられたということです。人一人の死を悼むという当たり前の人の心を持っていた被収容者たちと、その心を失ってしまっている入管職員たちの違いは明らかです。

 同じブロックの仲間の死にショックを受けた5Aブロックの被収容者たちは4月15日ハンガーストライキを開始しました。このハンストは東日本入管センターでまたたく間に広がり、120名以上という日本の入管収容施設における史上最大規模のものとなりましたが、当時日本社会においてどれだけ注目されていたでしょうか。

 ハンストを通じての要求項目は、以下のようなものだったそうです。

 

・Dさんの死亡の原因について、自分たち被収容者に説明すること。ほんとうに自殺なのか、そうでないのか。自殺なのだとして、その原因はなんだと入管は考えているのか。センターの所長は、Dさんの死についてどう責任を認識しているのか。

・長期収容をやめること。Dさんは仮放免不許可をつげられた翌日に死亡している。東日本センターをふくむ入管収容施設における、近年の超長期収容がDさんを死に追いやったのではないか。

・医療を改善すること。診療を求めても、1ヶ月以上も待たされる。

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 このハンストに対して、センター側は、表向きは「(ハンストは)健康を害する恐れがあり、中止するよう説得している」とマスコミに答えていました。ところが、実際は、入管はこの大規模ハンストに対して説得など何もせず、無視、黙殺する姿勢をとっていたということです。

 また、クマルさんが亡くなった4月13日の夕方には、彼が亡くなった5Aブロックでこのような出来事があったそうです。開放処遇の時間が終わっても居室に戻らない被収容者たちに「部屋に戻りなさい」と命じる職員に対して、同国のひとが「人が死んでるんですよ」と言ったところ、職員のひとりがこれに「それで?」という言葉を返したというのです。

 この発言を近くで聞いていたべつの被収容者が「人が死んだのに『それで?』と言うな!」と厳しい語調で職員に抗議したそうです。この人は、このときに自分で自分の頭を壁に何度か強く打ち付けたといいます。職員たちはこの人を組み伏せておさえつけ、力づくで連行して隔離処分にしました。頭を壁に打ち付けた行為を「自傷行為」とみなしてこれを防止するための隔離処分なのでしょうか。しかし、自傷・自殺をふせぐために入管がなによりもまずしなければならないのは、入管が被収容者の人命を大事にするのだという意思と決意を被収容者全体に示すことではないのでしょうか?

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 クマルさんの自殺から1年後の2019年4月13日、牛久センター近くで、市民約40人が哀悼の意を表し入管に抗議の声を上げました。

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