『櫻画報』電子版 第1号

こんにちは。ボクは左翼ウィルスでういるす。あ、怖がらないで!今の日本では、ボクの仲間に感染する危険性は(ボクらにとっては残念ながら)ほとんどないでういるすよ。でも、今から30年以上前には、ボクらの感染力もなかなかのもので、ボクらはわが世の春を謳歌していたでういるす。
さて(こっからはフツーの言い方に直すでういるす)、ボクは、今から38年前の1970年、赤瀬川原平という画家に感染しました。そして、赤瀬川さんの脳髄を乗っ取りました(ちなみに、この年の3月、ボクの同志たちに感染した赤軍派の人たちが、よど号を乗っ取りました)。ボクに乗っ取られた赤瀬川さんは、今はなき『朝日ジャーナル』という雑誌を乗っ取り、『櫻画報』を週刊で発行しました。赤瀬川さんは、『櫻画報』は、『朝日ジャーナル』のグラビアページに「掲載」されているのではなく、『朝日ジャーナル』本編は、『櫻画報』を包む「包み紙」にすぎないのだ、と主張していました。
世間の人たちは、梱包芸術や宇宙の缶詰で有名な赤瀬川さんらしい発想だ、と感心しましたが、まさか、主筆の赤瀬川さん自身が、ボク=左翼ウィルスの包み紙ならぬ宿主にすぎなかった、ということには気がついていませんでした。
『櫻画報』の「サクラ」は、見物人の意味がありますが、ここでは、デモを見物に行き、時には学生と一緒に機動隊に投石したりするような「野次馬」(一時はそういう人がたくさんいたのです)のことです。馬肉をサクラ肉ということも掛けられています。というわけで、この漫画、というかパロディー作品は、ボクの仲間たちに感染していた当時のインテリたちに大いに受けました。
たとえば、第5号の「ハナサカヂヂイ」という話では、悪いお爺さんは、トロツキー、ないしは、ヘルメットをかぶった(トロツキスト)学生の姿で描かれているのですが、犬を殺してしまいます。犬は、もちろん機動隊員の姿です。
第23号からは、馬オジサンと泰平小僧というコンビが主人公となります。馬は野次馬ですが、泰平小僧の姿は、1970年11月に自決した三島由紀夫からとられています。
さて、1971年3月19日、第31号で、『櫻画報』は、『朝日ジャーナル』での連載を終了……ではなく、『朝日ジャーナル』を包装紙とすることをやめます。『朝ジャー』を包み紙とした最後の号では、中央に「アカイ アカイ アサヒ アサヒ」という文字(これは、戦前の国民学校の国語教科書1ページ目に載っている有名な言葉ですね*1)と、朝日の代わりに朝日新聞のロゴが描かれました。
その下には、欄外に出て行こうとする馬オジサンと泰平小僧がいます。そして、「本誌重大発表」として、櫻画報が、「第二次乗っ取り」を決行することが決まった、と書かれています。つまり、『朝ジャー』の乗っ取りをやめて(つまり「包み紙」を変えて)別の雑誌を乗っ取り、包み紙とする、というわけです。
欄外には、「朝日は赤くなければ朝日ではないのだ。ホワイト色の朝日なんてあるべきではない。せめて櫻色に……。」と書いてあります。
次のページでは、見開きいっぱいに当時発行されていた雑誌や新聞の名前がびっしり書かれ、それを見ながら、馬オジサンと泰平小僧が「サテ今度は……」「ドコを乗取ろうかナ?」と言っています。
結局、次に包み紙となったのは『ガロ』で、そこで三号を発行して『櫻画報』は廃刊となります。
ちなみに、包み紙となった最後の『朝ジャー』は、朝日新聞幹部の怒りをかったのか、その辺の真相はよくわからないのですが、回収処分となりました。
ところで、その後、80年代、90年代と、ボクの宿主である赤瀬川さんの脳内では、白血球やらメンシェビキ細胞、じゃない免疫細胞*2やらがウヨウヨと増えてきて、ボクは活動を休止せざるを得ませんでした。ボクは、長い間潜伏して、再び発症する機会をうかがっていたのですが、ついに赤瀬川さんの脳内は白血球に支配され、文春新書から『日本男児』という本を出すにいたりました。
http://d.hatena.ne.jp/zarudora/20080207/1202390434
赤瀬川さんの脳内は、もはやとうていボクが生存できる環境ではなくなりました。というわけで、櫻の季節にはちょっと早いのですが、ボクは赤瀬川さんの乗っ取りを断念し(赤瀬川さんを卒業し)このたび、包み紙、ではなく宿主を代えることにしました。それに伴って、『櫻画報』も、新しい乗っ取り先を探すことになりました。あくまでボクが「赤瀬川さんを卒業する」のですが、赤瀬川さんご本人は、自分が主体として「左翼を卒業した」つもりらしいです。また、左翼アレルギー状態となった赤瀬川さんは「病気が治ってヨカッタ」と思っているらしく、うんざりしますが、まあ、昔はずいぶん良くしていただいたのは事実ですし、ウィルスのボクが言うのも変ですが、どうぞお元気で。
それにしても、時代は移りかわりました。もはや21世紀です。ボクは、「紙」媒体の世界を捨て、今度は電子の世界で、『櫻画報』の乗っ取り先を探すことにします。
そうです。ボクも生まれ変わるのでういるす。リアル世界はトリフルウィルス君たちにまかせ、ボクはコンピュータ・左翼ウィルスとなって、ネットの世界で左翼小二病を大流行させようと思います。
というわけで、最初の乗っ取り先は、ボクの同志たちに感染した「はてなサヨク」という人たちがたくさんいるらしい、はてな村にしましたでういるす。それでは、みなさん、また会う日まで!
万国の左翼ウィルス、感染せよ!

櫻画報大全

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*1:ちなみに前のバージョンの教科書の1ページ目は、「サイタ サイタ サクラガ サイタ」だそうです。

*2:ちなみに、東大細胞というのもありますが、これは赤色細胞ですが、ボクらの敵です。