SPI

 最近では、大学「改革」の一環で、FDということが言われるようになってきました。FDというのは、Faculty Development の略で、教員の(能力)開発ということです。ま、ぶっちゃけ、大学教員は研究ばかり熱心で教え方が下手な先生が多いので、大学が自己点検して、もっとよい授業をつくっていこう、ということです。うがった見方をすれば、背景には、ぬるま湯(と思われている)の大学教員に競争原理を取り入れて、「使えない」先生を切り捨てていこう、という考え方があるのだと思います。でもまあ、たしかに大学教員は授業が下手な人が多いのは事実だし、学生本位で考えるのは悪いことではないと思います。
 で、FDの取り組みとして、いまのところ主に行われているのは、学生による授業評価アンケートで、これはかなりの大学でやられるようになってきました。これもいろいろなやり方があるのですが、授業中教師が用紙を配るやりかたのところもあれば、それでは不正が起こる、と、事務職員がアンケートを実施して、その間教師は教室の外に出ていなければならない、というようなところもあります。
 さて、そうしたFDの一環として、大学教員に、授業方法についての研修を受けさせる、という大学もあります(いまのところ数はすくないようですが)。某大学では、全教員必修で、某大手予備校の「ベテラン教師」を講師に、授業方法研修があるそうです。内容としては、ベテラン講師によるモデル授業を通じて、板書の仕方や立つ位置、しゃべり方など基本的な事項について、レベルアップを図る、とのことです。まあ、予備校と大学では授業の質が異なるような気もするのですが、たしかに予備校のベテラン教師といえば、若者に興味をもって授業を受けさせることをシビアな環境で模索してきた人なはずなので、どのような工夫をしているのか、興味があります。ぜひ、参考にさせていただきたいと思います。ただね……マクドナルドみたいに、何でもかんでもマニュアル的に管理されて、お客様とサービス提供者みたいな感じになるのは、つまらないなあ、とちょっと思いますけどね。変な先生、変な授業もあるけど、面白い先生もいる、ていうのが大学のようなイメージがあったのですが、もうそういう時代じゃないんでしょうね。規格品の先生に規格品の生徒、てわけですか。まあしょうがないですけど。
 さて、たしかに立ち位置とかしゃべり方なども含めた授業方法の工夫、大事なことだとは思うのですが、反面、いくら工夫しても、そもそも学生の側に授業内容への興味がないのだから、どうやっても居酒屋化は避けられないのかも、などと空しい感じがしなくもありません。なぜ大学生は大学の授業に興味がないのか。いや、では一体彼らは何に関心があるのか。それは、例えば「SPI」です。
 私もわりと最近知ったのですが、最近の就職試験では、「SPI」なる、適性検査を課す会社が多いのだそうです。これはどうやら、知能テストと一般常識問題を合わせたような問題らしく、元々は「米ミネソタ大学の心理テストMMPI(minnesota multiphasic personality inventory)などを原型として、1974年に日本リクルートセンター(現リクルート)の人事測定事業部が開発した」のだそうですが、現在は人事測定研究所なる所が開発、販売しているのだそうです*1。私が大学生のころはそんなもの聞いたこともなかったですが、現在では全国の多くの企業が就職試験で採用するようになっていて、「就職のセンター試験」などとも言われているらしい。
 想像するに、以前は学歴で新入社員をとっていたのが、最近では、高学歴、一流大卒だからといって、一般常識がそなわっているとは限らない(むしろ逆)ということが分かってきた。で、よくいえば学歴社会の崩壊なのですが、企業側が独自に、「ビジネス」で「使える」人間、つまり「常識ある人間」を判断しようという動きが出てきた、ということでしょう。
 しかし、このSPI(synthetic personality inventory 「総合人格検査」の略)ですがね、その中核をなす「性格検査」というのは

性格検査はSPIのベースになるもので、情緒的側面(情緒的にどのくらい安定しているか、対人関係や組織への適応力を測定)、行動的側面(行動力、社交性、根気などを測定)、意欲的側面(やる気、意欲、活力などを測定)、性格類型(興味や関心の方向、ものの見方、判断の方法などについて類型化)からなる

 ということで、なんか、例の「心のノート」にも通ずるような、とっても胡散臭いもののように私は思うのですが……そういうことを言ってる人はいるんだろうか。少なくとも私の知り合いの大学教員には、このSPIというものの存在自体知らない人が多くて、それもどうなんだろう、と(人のことは言えませんが)ちょっと思ったりもします(だって、本屋の「就職試験」コーナー行ったら、棚のほとんどをSPI問題集などが占めているのにですよ)。
 まあそれはともかく、こっからが笑えるような笑えない話なのですが、先日、非常勤先の某大学(ちなみに某予備校の研修をやる大学)の図書館で、休み時間に勉強していたのですが、そこに学生がどやどや入ってきて大声で会話を始めました(ちなみに彼らは、図書館では静かにする、という「常識」がそもそもありません)。その会話の内容です。

A「やべーよ、SPIやんなきゃ。全然できねーよ、むずかしーよ」
(SPIの問題集を開いて勉強(?)をはじめる)
B「じゃあ、問題出してみてよ。」
A「えーと、よしいくぞ。えー、計算問題。難しいんだよな。えーと、あるクラスでアンケートをとったところ、国語が得意な人が25人、算数が得意な人は15人、国語も算数も得意な人が5人、国語も算数も苦手な人が5人、という結果が出ました。このクラスの人数は何人でしょう*2。」
B「えーと……40人。」
A「えー?!なんでそんなにすぐわかるんだよ!」
B「だって、(25+15)−5で35しょ。35+5で40。」
A「まじ?全然わかんねーよ。やべーよ、あー!勉強しなきゃ」

……まあ、全員がこうではないでしょうが……それにしても、一応理系の大学なんですけど……。*3
 で、その後、午後の授業に行ったら、案の定、SPIの問題集を開いて、いっしょうけんめい、「内職」をしている学生がいました。
 まあ、言ってみれば、もはや大学というものの存在価値を、企業も学生も、誰も認めなくなりつつある、ということですよね。……ていうか、就職の為に大学行って、大学行くために予備校に行きますわね。で、大学では授業中SPIの勉強をする。そして、大学の先生は予備校の先生の研修を受ける……なんかブラックジョークのようですが、いっそのこともう、予備校でSPIの授業をしたほうが手っ取り早いのではないか、と思ってしまいます。

*1:この辺の知識、けっこう怪しいので、間違ってたらご指摘ください

*2:本屋でSPIの問題集を立ち読みしたら、たしかにこの手の問題があった

*3:いや、まあ、「近頃の大学生はバカになった」とみたいなイヤミなことをいいたいわけではなく、SPIの他の問題、確かにややこしそうで、私だって全然できないかもしれませんけどね。