先日、浅見理都さんの『クジャクのダンス、誰が観た?』の感想を書きました。
同じ作者が2018〜19年に『モーニング』に連載した『イチケイのカラス』も読んでみました。
4巻と短めなので(打ち切りになったという噂も?…)すぐ読み終わりましたが、大変おもしろかったです。
二作品を比べると、こう言ってはなんですが、4年間で絵がかなり上手になっておられます。しかし『イチケイのカラス』の絵も味があっていいと思います。二作品続けてタイトルに「カラス」「クジャク」と鳥の名前が入っていて、『イチケイのカラス』の巻末漫画での自画像も鳥(インコ?)なので、作者はきっと鳥好きの方なのでしょう*1。
『クジャクのダンス〜』は準主人公が弁護士ですが、『イチケイのカラス』では主人公が裁判官です。以前の記事でも紹介したように『クジャクのダンス』の監修は、冤罪の問題について発言を続けている市川寛弁護士です。一方、『イチケイのカラス』の法律監修は櫻井光政弁護士と片田真志弁護士なのですが、この作品の準主人公、イチケイの駒沢部長のモデルは、木谷明と原田國男という実在の元裁判官です。木谷明氏は、現役中に30件以上の無罪判決を確定させた伝説の裁判官で、現在は弁護士としてやはり冤罪の問題について発言を続けています。原田國男氏も警察・検察の捜査の問題点について批判しています。木谷氏は駒沢部長のビジュアルのモデルでもあり、浅見氏による木谷氏の似顔絵は駒沢部長と区別がつきません。
第2巻と第3巻の巻末漫画では、浅見氏が原田、木谷氏と対談した様子が描かれているのですが、それを読むと、浅見氏がいかに二人を尊敬しているかがわかります。つまり、浅見氏は相当な問題意識を持って『イチケイのカラス』を描いているのだと思います。漫画には入間みちお他、現実にはありそうもない破天荒な裁判官が登場します。しかし、↓の作者インタビューなどをみても分かる通り、法律監修の弁護士とも協力して法律や裁判のリアリティについてとことん追求した上で、誇張するところは誇張する、というスタンスで作られているようです。
さて、この『イチケイのカラス』は、2021年にドラマ化されています(続編や映画も作られています)。このドラマについては、原作では丸メガネで恰幅のいい入間みちおを竹野内豊が演じ、原作では男性の坂間真平が女性の坂間千鶴に変えられて黒木華が演じています。こんなふうに原作からの大幅な変更があり、原作ファンからは評判が悪いとも聞いていたのですが、一応観てみよう、と思ってとりあえずネットレンタルで1・2話のDVDを借りました(配信している動画サービスはないようです)。が……ちょっとすいませんが私はこれ以上観る気にはなりませんでした。まあ、月9のテレビドラマということで、リアリティの追求よりもわかりやすく面白くすることを優先する、ということは当然あるのでしょうが、いくらなんでもめちゃくちゃすぎました。
さきほど述べたように、原作が、リアリティと「ありえなさ」のバランスを周到に考えて作られているのに比べると、ドラマのほうは、リアリティとかどうでもよくて、とにかくいかに「破天荒な裁判官」というキャラクターをわかりやすく「破天荒」に描くか、ということしか考えていない感じでした。当然ながら、原作者のような木谷明や原田國男に対する思い入れのような側面も(少なくとも1ー2話を観た限り)脚本からは感じられません。原作とは違って、政治家の汚職や裁判官の上層部の権力闘争の闇、みたいなものが描かれているのですが、なんかそれも(少なくとも1ー2話を観た限り)うすっぺらいですし……。結局、竹野内裁判官がかっこよく悪を裁く、みたいな、要するに遠山の金さんみたいな話になってるわけです。原作は全然そういう感じではないわけですがね。
この原作からの登場人物の変更は、キムタクが検察官を演じた『HERO』に似せたのではないかとも言われて(『HERO』は観てないんですが)、ありそうなことだと思いました。
細かい話なんですけどね、原作で、入間みちおの机の上にはいろいろなものが置かれていて汚い、という設定があります。ところが、ドラマでは、それを誇張して、机の上どころか周囲に様々なものが溢れかえっている設定になっているのですが、さらに、それらのグッズが、ふるさと納税の「返礼品」、という原作にない設定が付け加えられています。いやいや、ふるさと納税って……これだけ批判されているものを、社会派のはずのドラマの主人公が「ふるさと納税が趣味でねえ」とか無邪気に言ってしまうところからして、もう……と思ってしまいました。
そうそう、『イチケイのカラス』を読んだ後『クジャク〜』第3巻を改めて読んだら、115ページで笑ってしまいました。心麦の友人ありさの裁判傍聴メモに「みちお」という名前とメガネの人物の似顔絵が書いてあります。ありさは小麦の父に「そういえば…ありさちゃんは法学部行ってたもんなぁ〜 勉強熱心で素晴らしい」と声をかけられるのですが、そのときのありさの心の声が「推し(「裁判官」とルビ)を見に来ているとは言いにくい!!」になってます。ありささん、「みちおを見守る会」の会員だった、てことでしょうか……。
*1:このインタビュー https://www.bengo4.com/c_1009/n_8551/ によるとやはり「鳥が好き」と書かれています。