粘着ポ××

 今日昼過ぎ、某大学に行くため、私は自転車で某駅に向かっていました。場所は多摩市某所です。駅近くの通りで、歩道を走っていたとき、横の車道で一台のパトカー(らしきもの)が止まり、一人の警官(らしきもの)が降りたのが眼の端に見えました。一瞬いやな予感はしたのですが、そのまましばらく走っていると、うしろから、「ちょっとすいません」という声がします。振り向くと、さっきのパトカー(らしきもの)から降りた警官(らしきもの)でした。わ、やっぱり来たか……。水色の半袖の制服(らしきもの)を着て眼鏡をかけた中年の警官(らしきもの)が、私を追いかけて走りながらしきりと話しかけてくるのです。「ちょっとすいません、ハアハア、さっきこっちから見たらカギがついてないように見えたもんでね、ハアハア、ちょっといいですか?」「ああ、そうですか。カギはついてますよ。ほら。ちょっと電車の時間があって急いでいるので(<これは本当)いいですか?すいません」といって、そのまま走っていこうとすると、なおもその警官(らしきもの)は追ってきます。交差点の赤信号で止まったときに、横にならんできて、「ちょっとお話を聞かせてください、お時間はとらせませんから。ハアハア、あなた、私、前も声をかけませんでしたか?」とか言うのです。たしかに私、自転車に乗っていると何度も警官(らしきもの)に声をかけられるのですが、残念ながらいちいち先方の顔を覚えてなどいません。とにかく、ほんとに電車の時間があるし、めんどくさかったので、「すいません、急いでいるので」と言って、信号が青になったので自転車をこいで交差点を渡り始めました。すると警官(らしきもの)は私の後を叫びながら追ってきて「ちょっと、あ!なぜ逃げるんだ!ハアハア、ちょとちょっと!」と言って、交差点の真ん中で私の肩のあたりのシャツをぐわしっ!と掴みました。交差点を渡る人々が一斉にこちらを見ます。しかし交差点の真ん中で止まるわけにもいかず、とりあえず道を渡ってからしかたなく自転車を止めました。「なぜ逃げるんですか、不審な行動をとると……」云々と言っているので、めんどうな事になった、とブルーになりながら、「いや、別に逃げてませんよ。急いでるって言ったじゃないですか。はいはい、わかりましたよ。で、なんですか?」と言う感じで、仕方なく、その警官(らしきもの)の質問(らしきものに)任意で答えることにしました。内容は、お定まりのものです。「防犯登録をしてないじゃないか」「名前も書いてないのか」「これは君の自転車?」等々。「防犯登録してないね、盗まれたらどうするの」というので、「困りますね」と答えたんですが、それ以外にどう答えればいいと言うんでしょうか。というわけで「じゃあそのうち防犯登録をしておきますよ」と言ったところ、「あなたが逃げるみたいにばーっと走ったり、不審な行動をとるから、警察官としてはそれなりに対処せざるをえない」云々、言い残して、放免(らしきもの)になりました。
 おそらく、私の対応はヘタだったのでしょう。今度からは警官(らしきもの)をいたずらに刺激しないように注意しよう、と思います(こんなくだらないことでめんどうなことに巻き込まれるのは馬鹿馬鹿しい)。しかしね……。警官(らしきもの)は、まさしく私が「怪しげ」だったからこそ、要するに自転車泥棒と疑って声をかけてきたのでしょう。いかにも登下校風の女子高生、いかにも出勤帰宅途中風のサラリーマンには、たとえカギがなかろうが防犯登録してなかろうが、声はかけんでしょう。で、確かに、私は、怪しげ要素満載です。だいたい、私は、上佑某に似ているとよく言われましたし、ビン・ラディンに似ていると言われたこともあります。一般的な通勤時間に移動してもいない、一般的な勤め人風格好もしていない*1
 だいたい自慢じゃないけど、私が大学事務室の教員用受付とかに入っていくと、私の顔をしらない事務の人や先生は、ほぼ百パーセント(学生はこっちじゃないよ、という)「怪しげな顔」をします。
 それにしても、任意の質問に答えないと、「答えようとしないこと」自体が「不審な行動」とみなされる。……てそれ、結局「任意」じゃないじゃん。
 まあいいや。とにかく要するに、警官(らしきもの)は、私が、「まっとうな」社会人には見えない、かつ、まっとうな社会人ではない人間は自転車泥棒をしかねない、という予断と偏見のもとに、私に声をかけたのでしょう*2
 でも、そこのサラリーマンが着ているスーツ、私のボロ自転車よりずっと高そうだけど、万引きしたものかもしれないじゃない。しかしそれは疑わない。
 こう言っても、おそらくあの警官(らしきもの)は「いや、ホンカンは疑ってなどいない。防犯登録をしていない、名前を書いていないと盗まれますよ、とアドヴァイスをしたのだ」とでも言うんでしょうね。
 ほお、そうですか。名前を書いてないと盗まれますか。でもその辺を歩いてる勤め人やOLの着ている服、カバン、靴、なんて、繰り返すけど私のボロ自転車よりずっと高いのもありそうですが、みんな名前なんか書いてないと思うぞ。じゃあ、あんたらはそうやって持ち物に名前書いてない人を見つけたらいちいちアドヴァイスしてまわるんだろうな。
 というわけで、全国の女子のみなさん、道で声をかけてくるこんな不審な(警官らしき格好をした)オジサンがいるかもしれません。
「ちょっとちょっと!そこの君、こっちから見たらブラウスの下に透けてるブラジャー、名前書いてないみたいだけど、それほんとに君のブラジャー?サイズが合ってないみたいだけど。名前書いてないと、盗まれたらどうするの?下着泥棒はいっぱいいるんだから。」「ちょっと急いでますんで」「あ、なぜ逃げるの!不審な行動をとると……」ぐわしっ!むんずと胸を鷲掴みにするオジサン*3
 ……あほらし。もうやめよ。

*1:しかし、いかにも警官らしき格好をしていたあのオジサンは、ホンモノの警官だったのか?そんな証拠はどこにもない。警察手帳をみたわけでもない。警察手帳だって、ニセモノかもしれないではないか。

*2:までも、しかたないですね。まっとうではない生き方をしてるんだから。

*3:高遠菜穂子