アニメと反戦(1)『機動戦士ガンダム』1

ガンダムと私

 いわゆる「ファーストガンダム」本放送は1979年。私は中学2年生だった(1965年生まれ)。そういう意味で、私はまさに「ガンダム世代」である。しかし、私自身はガンダムに「はまった」ことはない、というかはまりそこねている。アニメや漫画に興味がなかったわけではなく、1974年、小学3年生のときは、級友がみんな『猿の軍団』を観ていたのを尻目に『宇宙戦艦ヤマト』本放送に熱中し、欠かさず観ていた。また、本放送がガンダムの翌年1980年の『伝説巨神イデオン』には結構はまり、1982年の映画は甲府の映画館に観に行った。ところが、「ファーストガンダム」の本放送は、何回かは観ているが、どういうわけかはまりそこねた。周知のように、ガンダムは本放送時よりも再放送で次第に人気が高まっていったので、高校のときは、ガンダムブーム真っ只中だったはずである。当時所属していた美術部の部員がガンダムのイラストを書いていて、それを見た顧問の美術教師が「なんだ、またグンダムか、グンダム、グンダム(笑)」とからかっていたのを覚えている。しかし、私自身はそうしたブームにも乗り切れず、再放送や劇場版、その後のガンダムシリーズも観ることなく、今にいたるまで、ファーストガンダムのストーリーや主要キャラクターさえあまり把握していない。流行り物に対する反発、というのはやはりあったとは思う。
 前置きが長くなったが、最近、この歳になって「ファーストガンダム」を全話視聴した*1。『機動戦士ガンダム』が世に出てからおよそ40年、なぜ今、という理由は、最近安彦良和の漫画を何作か読んだから、というのと、アマゾン・プライムビデオで追加料金なしに視聴できることに気がついたから、ということなのだが。
 まず、思ったのは、永井一郎、役やりすぎでしょ、てこと。ほとんど毎話観るごとに「え?また永井一郎?!」と笑ってしまうことの繰り返しだった。wikipediaなどによると、当時のアニメの現場では一人の声優が何役もやるのは当たり前だった、と書いてあるが、それにしても、だ。永井一郎という声優は私は昔から大好きな声優で、一番印象に残っているのはやはり『未来少年コナン』のダイスだろうか*2永井一郎はとても上手い声優だが、声が特徴的すぎてすぐわかってしまうので、複数の役をやるのは向いていないように思うのだが、どうしてああなったのだろうか(まあ予算が足りなかった、ということなのだろうが)。
 さて、内容についてだが、ブーム当時から指摘されていたように思うが、この作品は、リアルな「戦争」を描いたことで画期的なアニメであった、と言えるだろう。そこで、この機会に、夏目房之介『マンガと「戦争」』(講談社現代新書、1997年)と、藤津亮太『アニメと戦争』(日本評論社、2021年)という二冊の本を読んでみた。どちらも大変面白かったのだが、特に後者とからめて、ガンダムをサカナに、少し書いてみようと思う。

カイ・シデン厭戦

 以前の投稿で、安彦良和の漫画『クルドの星』について書いた。

クルド問題はわれわれの問題である - 猿虎日記

そのとき、この漫画の主人公が、クルド独立運動に「巻き込まれた」というのは間違いだ、と書いた。しかし、「ファーストガンダム」では、主人公の少年少女たちは、戦争に「巻き込まれた」ことが強調されている。この作品は、民間人であった少年少女たちが、偶然連邦軍の戦艦ホワイトベースに乗り込むことになり、即席の兵士としてジオン軍との戦闘に「巻き込まれて」行く、という話だ。様々な実戦経験を経た彼らが、第26話で、連邦軍の将軍レビルと面会する場面がある。ここで将軍は、少年少女たちに、このまま連邦軍の軍人として戦争に参加するように指示する。このとき、フラウ・ボウがおそるおそる質問する。「軍隊に入りたくない人はどうするんですか?」将軍は、「すでに諸君らは立派な軍人だが、軍を抜けたいというのであれば一年間刑務所に入ってもらうことになる」と答える。本来ならホワイトベースガンダムという新兵器の軍事機密を知った彼らは一生刑務所に入るべきなのだ、とも。実質的に彼らに軍隊を抜けるという選択肢はないのである。
 しかし、そんな中、唯一軍隊を抜けるということを主体的に選択するキャラクターがいる。それがカイ・シデンである。カイは、「皮肉屋」の脇役キャラクターである。初登場時から、避難民の誘導に協力しない自分勝手な人間として描かれ、セイラに「この軟弱者」と平手打ちを食らっている。その後もしばしば他の人間の行動を茶化すような言動をとって、ブライトに殴られたりもしている。カイもまた他の少年少女とともに26話で勝手に正規軍に入れられるのだが、第27話で、「軍人なんてお硬いのは性に合わねえんだ」と言って、仲間の中で唯一ホワイトベースを降りることを選択する*3。このように、「軟弱者」「皮肉屋」であるカイは、当初はどちらかというと「厭戦的」な人物、として描かれている。また、カイはその後、ミハルという少女をジオン軍のスパイと知りながらかくまう。といっても彼はジオンに積極的に味方するわけでもなく、連邦軍ジオン軍、それぞれの「正義」のどちらにも無関心であるように見える。
 1979年当時、「軟弱者」「皮肉屋」「無関心」などは、「しらけ世代」とか「新人類」とか言われた当時の「若者」の特徴とされたものと一致している。カイは、ミハルの死をきっかけに、結局は「連邦軍の戦争」に積極的に参加するようになるのだが、ただ、少なくとも最初の頃のカイが皮肉な態度をとる対象に、「戦争」や「軍隊」が含まれていることは確かである。もちろん、機械オタクのように描かれているアムロもまた、一度は軍隊を脱走する。しかし、彼の場合、その理由はまったく個人的なものであり、アムロが戦争や軍隊そのものを皮肉な眼で見ている様子はあまり伺えない。(続く)

アニメと反戦(2) - 猿虎日記

アニメと反戦(3) - 猿虎日記

アニメと反戦(4) - 猿虎日記

アニメと反戦(5) - 猿虎日記

 

 

*1:まあ正直途中早送りも結構しましたが。

*2:未来少年コナン』はファーストガンダムの前年の1978年だったようだが、こちらも私は熱心に見ていて、いまだに宮崎アニメのベストではないかと思っている。

*3:それにしても、一年刑務所に入るという話はどこへ行ったのだろうか…。