アジールとしてのネット

 もう一つ。私は「メンヘル系」のサイトを見にいったことはまったくありませんが、たぶん、rir6氏が言うように、リアルな世界での「公共なるもの」に苦しめられている人々にとって、ネットはアジール*1のような役割を果たしているのだろうな、と思います。ネットでしか「安らかに語れない」と思うひとがいることは充分考えられます。直接メンヘル系というわけではないですが、IS(インターセクシャル)の問題を扱った六花チヨのマンガ『IS』(第一巻)

IS(1) (KC KISS)

IS(1) (KC KISS)

にも、IS同士がネットで語りあうシーンが出てきます。

結局いつもここでしか話せない 同じIS同士……自分たちの悩み……知り得るかぎりの情報……キーワード*2で守られた この閉ざされた世界でしか

というセリフがあります。このように、こうした人たちにとっては、インターネットこそが「閉ざされた」安心できる世界という意識があるのだと思います。実際、『IS』の主人公は、実世界で、「プライバシー」を踏みにじられるひどい体験をしています。主人公が診察を受けている病院の診察室に、医師達がぞろぞろと入ってくるのです。

何人もの医者が かわるがわるのぞきこんでいった 「へ――半陰陽ってこんなんなんだ」 伸ばされる手 記録のためのフラッシュの音 これが治療!? 挿れられた器具の痛さに 声をあげることもできずに私は!!

そして、病室の外では、看護師たちが声も潜めずこんなことを話あっています。

半陰陽?」
「うん 先生達も初めてだからさ 患者って言うより研究? もうモルモットよ あはは」

 こうした体験をしている人々に対して、「パスワードのシステムを学べないのは、作れないのは、ネットに向いていないからネットを使うのはあきらめろ」とは、私は言う気にはなれない。
 まあしかし、そのようなことを言う人が増えてきたのであれば、それにたいして「あきらめる」しかないのかもしれません。元々アジールとして成立した都市が、結局は巨大なムラに変質してしまったように、「アジールとしてのネット」も、もはや過去のものになりつつあるのかもしれません。

*1:cf.アジール権(wikipedia)

*2:原文のママですがおそらくパスワードの間違いかと