ホームレスは怖いですねえ

 ある人の家にいきなり893がやってきて、「こんど世界賭博ゆう大会をやることになった。お前のうちが会場になる。(おまえらがいるとジャマで目障りだから)○×日までに出て行ってくれ」という通告がある。拒否すると、真冬のある朝どやどやと893が乗り込んできて、暴力的に住人を外に追い出し、家を破壊した。
 こんな事件があったなら、どう考えても(あえてこの表現を使うが)「自然な」反応は「それはひどい」になるはずだと思うのである。ところが、893が警察と市の職員、「世界賭博」が「世界陸上」に、そして、追い出される人が「ホームレス」である、ということになると「しょうがない」が「自然」な反応である……? 本当にそうだろうか?
 もちろん、これは、今朝あった大阪長居公園での野宿者強制排除のことである。
 実際、あるテレビ局(ちなみに、世界賭博、じゃねえ世界陸上を中継する局)の今日昼のニュースではこのように伝えられている。

今年8月に世界陸上が開かれる長居公園では、公園の整備が進められていますが、大阪市周辺住民からの苦情がある上、工事の妨げになるなどとして自主撤去を求めていました。しかし、ホームレスや支援者は、市との話し合いは十分でないとして、10人が残っていました。
http://rootless.org/rough/index.cgi?%c4%b9%b5%ef%b8%f8%b1%e0%a4%c7%a5%db%a1%bc%a5%e0%a5%ec%a5%b9%a5%c6%a5%f3%a5%c8%a4%f2%b6%af%c0%a9%c5%b1%b5%ee%a1%caJNN%a1%bfTBS%b7%cf%a1%cb

 つまり、メイワクに思っている人が実際たくさんいる……かのようである。だが、そうした「普通」の人の声、なるものは、実は5年間で30件でしかなかった(こちら参照)上に、しかも、一人の人が複数回要望したものや、長居プールの所長や長居植物園の所長など市の「身内」のものも含まれていた。さらに、そうした数少ない市民の「苦情」については、大阪市南部公園事務所の石橋係長が、「近所回り」をして「苦情」を出すように説得していた(こちら参照)、つまりヤラセだった、というのだ。一方で、1月以降に集まった強制撤去反対署名5000筆の内約500筆は、公園周辺の地域住民の方や一般の公園利用者から集まったものだ、という話(こちら参照)もある*1
 といっても、「いや、私もホームレスはメイワクで撤去はしょうがないと思っているけど、この意見は別にヤラセで誰に言わされているわけでもなく、私の自然な実感だ」と言う人もいるだろう。さて、ではそうした「自然な実感」なるものを探すために、普段はあまり見ないテレビを見てみた。今日の昼のある局(しつこいが、世界賭博、じゃねえ世界陸上を中継する局)の情報番組「ピンポン!*2で以下のような市民の「自然な実感」が採集できた(街角でインタビューに答える大阪市民(女性))

(ホームレスのテントは)なくなったほうがいいですね 子供がいるので
*3

 さて、ここで、「自然な実感なるものが実在する」からこそ、それが「テレビに映された」のだ、という人がいるならば、それは、あまりにも素朴な発想であるといわざるを得ないだろう。「被写体が映像に先立つ」という素朴模写説は成り立たず、むしろ「映像が被写体を構成する」のだ、というのはこのテレビ時代において常識である。「私は毎日○○を食べて10キロやせました」とテレビの中で微笑む「ユーザー」は、確かに実在するのだろう。だが、この「ユーザーの映像」が、更なる実在する「ユーザー」を生み出し、そしてそのユーザーがテレビの中で微笑む「ユーザーの映像」となり……という無限連鎖が、テレビというものの本質である。
 つまり、「ホームレスのテントはなくなったほうがいいですね。子供がいるので」と眉をしかめる市民の声が、「無垢な、自然な実感」を映し出していると本当に言えるだろうか? 彼女が生まれてこの方テレビなど一度も見たことがないというのならまだしも、おそらく彼女もまた、テレビでニュースを見、お昼にはTBSで(大阪だから毎日放送か)ピンポン!を見たりしているであろうのに。そして、テレビの中で眉をひそめる市民の声を「無垢な、自然な実感」であると捉えた別の市民が、更なる「ホームレス怖い」という「自然な実感」をはぐくむ。そしてその別の市民がまた街頭でテレビに映され……。
 さて、「ユーザーの声」が宣伝情報番組のキモであるとするなら、仕上げをするのは、広告塔のタレントであることは言うまでもない。上述のある局(しつこいが、世界陸上を中継するTBS=毎日放送)の情報番組、ピンポン!で、野宿者排除の映像を映した後のスタジオでのやりとり、録画したので書き写しておく。

(司会は福澤朗、ゲストコメンテーターは石田衣良*4山田花子
福澤朗)これはただならぬ状況……。花子ちゃんは知ってた?こういう状況。大阪では。
山田花子)はい知ってました。もう街みたいに、なってるんです…あの一帯が(眉をひそめながら)
福澤朗)あーそうなんだ、そうなの。ちょっと怖い?やっぱり、はたから見ると。
山田花子)怖いです!近づけないですね…。
福澤朗)そうかあ。ま女性はそうかもしれないねえ。えー。

 なにこの、ホームレスは「女性」を襲うかもしれない存在であるかのようなあからさまな印象操作*5
 いや、花子だって「思ってもいないことを発言したわけではなくそれは自分の「実感」なのだ」とたぶん言うだろう。しかし、今自分が何を「思い」何を「言う」べきか、という空気を読むことこそが、タレントの能力なわけで。つまりそういう空気があるということだ(ていうか福澤のはあからさますぎだが)。

*1:というと、「それはプロ市民の「支援者」が近所周りをして署名するように説得していたんだろう」とか言う人がいそうだけど(笑)

*2:ちなみに私はこの番組初めて見た。

*3:念のため、このインタビューのすぐ後には「あの人たちにとっては家なんでね (撤去は)かわいそうかな、と思いますけど」という別の大阪市民(女性)の声が流れる。

*4:『骨音』はホームレス襲撃を題材としている

*5:そういう印象をもたれているかもしれないがそれは間違いだ、というネタフリというわけでもなくその後特にフォローなかったと思う。