日本のマスコミでは、中国、朝鮮民主主義人民共和国、韓国、ロシア、イラン……そうした国に関する報道のときだけ、事実や政府の公式声明を単に伝えるだけではなく、必ずといっていいほど「ここには、◯◯のねらいがあると見られます」のように付け加える。そういうしきたりがあるかのようだ。そのことはこのブログで2007年以来何度も書いている。
sarutora.hatenablog.com
先日電車の中でモニターに映されるニュースを見ていたら、また典型的なものがあった。まずそのニュースの背景を説明しておこう。
2025年6月13日、イスラエルが、イラン各地の核開発関連施設などの100以上の標的に対して「先制攻撃」を行った。その後両国は事実上の戦闘状態となり、イラン保健省によると21日までのイラン側の死者は430人、負傷者は3500人以上で、大半が民間人であるという。さらに同月22日には、今度はアメリカが、イランの3つの核施設を攻撃した。このイスラエルとアメリカによるイラン核施設への攻撃は、とんでもない暴挙であることは明らかだ。NHKの報道によると、その日のうちに、この攻撃に関する国連安保理の緊急会合が開かれている。
www3.nhk.or.jp
この緊急会合で、ロシア代表が、中国、パキスタンとともにこの件に関する決議案を準備していることを明らかにし支持を呼びかけたという。だが、それについてNHKの記事ではこう付け加えている。
決議案の採決が行われても、アメリカが拒否権を行使する可能性が高く、利害が対立する各国が合意を形成する難しさが改めて浮き彫りになりそうです。
それにしても、引用した部分、「利害が対立する各国が合意を形成する難しさが改めて浮き彫りになりそうです」という書き方にあふれる他人ごと感、まったくあきれる他はない。その後、イラン核施設への攻撃を非難する決議案は提出されたようだ*1。採決の報道は見つけられなかったが、周知のとおり、アメリカの拒否権行使によってイスラエル非難決議が否決されることは、これまで何度も繰り返されてきたことだ。イスラエルによるイラン攻撃の直前の6月4日も、国連安全保障理事会では、ガザへの人道支援の制限解除をイスラエルに求めた決議案が提出されたが、常任理事国5カ国非常任理事国10カ国のうち、アメリカ以外の14カ国が賛成したにも関わらず、常任理事国であるアメリカ一国が拒否権を行使したために否決された。
www.sankei.com
それはともかく、イスラエルとアメリカによる核施設の攻撃を受けたあと、7月に入って、イランは、IAEA(国際原子力機関)の査察への協力を停止し、査察官はイランから退去した。イランは、アメリカなどによる核施設への攻撃をIAEAが非難しなかったとして協力を一時停止する法律を施行したのだという*2。このイランの対応はまったく理解できるものだ。だいたい、イスラエルは核兵器保有をほのめかすだけで肯定も否定もせず、イランと違ってNPT(核拡散防止条約)に加盟してすらいない。にもかかわらず、IAEAは、過去、イスラエルにNPTへの加盟と査察の受け入れを求める決議案を、アメリカやヨーロパ、日本などの反対で否決している*3。
ここまでが今回私が電車で見たニュースの背景なのだが、では、そのニュースでは何が伝えられていたかというと、7月以来IAEAの査察への協力を停止していたイランが、IAEA査察官の受け入れを部分的に再開したというのだ。これを伝える各社のニュースで、例の「ねらい」論法が炸裂していた。
産経↓
IAEA査察官がイランに入国と報道 核開発の監視に関する協力を一部再開か - 産経ニュース2025/8/27 21:16
イランのアラグチ外相は27日、国際原子力機関(IAEA)の査察官が同国南部のブシェール原発で燃料の交換作業を監督するため入国したと明らかにした。イランメディアが報じた。イランの法律はIAEAへの協力を一時的に禁じているが、核開発拡大に対する欧米諸国からの圧力が強まる中、柔軟な姿勢を示す狙いがありそうだ。
日経↓
IAEA査察官、イランに入国 協力姿勢示す意図か - 日本経済新聞2025年8月28日 14:30 [会員限定記事]
【ドバイ=福冨隼太郎】イランのアラグチ外相は27日、国際原子力機関(IAEA)の査察官がイランに入国したと明らかにした。同国南部のブシェール原子力発電所での燃料の交換を監視するためとしている。核開発をめぐって米欧がイランへの批判を続けるなか、核監視への協力姿勢を示す狙いもありそうだ。
NHK↓
イラン IAEA査察官受け入れを部分的に再開 核開発めぐる国連制裁再開を回避したい思惑か | NHK | イラン2025年8月28日 5時14分
イランは、IAEA=国際原子力機関の査察官の受け入れを部分的に再開したと明らかにしました。核開発をめぐりイランへの制裁を再開させようとする動きがある中、IAEAへの協力姿勢を見せることで、そうした事態を回避したいという思惑もあるとみられます。
朝日↓
IAEAトップ「査察官イランに戻り活動準備」 欧米の圧力高まる中 [イスラエル・イラン情勢]:朝日新聞テヘラン=大野良祐2025年8月27日 20時00分
イスラエルと米国がイランの核施設などを攻撃した6月の「12日間戦争」後、イランの批判を受け、IAEAの査察官全員がイランを退去していた。核問題でイランには外交解決に向けた欧米諸国からの圧力が高まっており、査察官が戻ることで、IAEAとの関係正常化を印象づける狙いもあるとみられる。
制裁再開という「欧米諸国からの圧力」があるから査察受け入れを再開したのだとして、それを「協力姿勢を示すねらいがある」ていう言い方をするのって、おかしいでしょ?
カツアゲされてる少年がしかたなくお金払ったら「ちゃんと払ってますって真面目アピールして、俺等にシバかれるのを避けようってねらいがあるんだろ?いい子ぶってんじゃねえよ」て言われているようなもんじゃないの。